フリースタイルで勝手気ままにお送りする当連載、今回はなんと、
インタヴューを敢行させていただくことになりました。ありがたや。
ご登場いただくのは、当連載の定期シリーズ・最終回で紹介したthe coopeezのGt./Vo.藤本浩史さんです。
the coopeez /山本 聡 (Ba)、森田夏音(Dr)、藤本浩史 (Vo/Gt)、小川 宏実 (Gt) [L to R]
the coopeezは、2002年に当時大学生だった藤本さんが「バンドやりたい!」と思い立ち、仲間を探すところから始まりました。その後、どうにか動き出し、長い時間かけてミニアルバムやシングルを発表をしつつ、1st フルアルバム『GOLDENTIME』をリリースしたのは、歩み始めてから10年が経過していた2012年12月のこと。私が彼らにとらわれてしまったのは、まさにこのアルバムでした。聴くやいなや、ライブを観なくては!という気持ちになり、飛んで行ったレコ発ライブで、ステージ上で藤本さんがまさに精根尽き果てるまですべてをぶち込んでいる姿にやられてしまったのです。それからまた時が経ち、今年5月に待望、もう待望としか言いようがないくらい待ち望んでいた2nd フルアルバム『newbalance』を発表し、彼らは今ツアーの真っ最中です。
不器用で、生きるのが下手くそそうで(暴言ごめんなさい)、でも自分に嘘をつかないように、それがいちばん命を削るやり方だとしても、自分が信じたことを真正面から大事にしている姿。フロントマンの藤本さんは決して前向きな性格でもなければ、はつらつしたところも全然見受けられないのに、彼らの音楽やライヴから、どうしてこんなに強さみたいなものをもらえるのだろうかと考えました。カリスマ性もないし、わかりやすい輝きに惹かれているわけでもない。それでも理屈じゃなくて魂が震えるあの瞬間を、私はあなたにも味わって欲しいのです。
(取材・文=いとうさわこ)
——今作『newbalance』では、冒頭(「イントロダクション」)から「スーパーコンプレックス!」って叫んでいたり、よく言葉にされている印象がある「コンプレックス」なんですが。いつ頃から自覚というか、抱えていたんですか?
「劣等感がすごくありました。子どもの頃は家の外に出たら人見知りして喋れなかったし、力もないし、身体も弱いし、運動神経良くないし、泳げへんし、動体視力悪いし……。じゃあめっちゃ頭ええんかって言ったらそうでもない。図工が得意、絵を描くのが好きだといっても、突出して1番だったわけでもないし、学級委員長になれるような人気者でもなく。全体的に…アウトなんですよね。でも、強くなりたいとか、スポーツが上手くなりたいとか、健康になりたいとか、地黒の人間に憧れるとか(笑)、そういうのが積み重なってきているんやろなと思います」
——今人前に立つことを選んでいるのは、劣等感や人見知りの部分の反動からなんでしょうか。
「それはあります。自分に自信がないのと同じくらい、知って欲しいとか認めて欲しいっていう気持ちがあって、ひとりで居るのが楽とかひとりでいるのが楽しいと思っているけど、ひとりは寂しいとか、誰かがいないと寂しいっていう想いが常にある。最近すごいそれを思うんです。なかなか曲にはできないですけど。超矛盾した感覚が、今まさにこの状態です、っていう」
——矛盾した気持ちが常に共存している。
「ほんまに自信がない、でもある意味では自信があるっていう、端からみたらどっちやねんていうのが真実やと思っていて。たとえば超純粋で素直なところと、超下心満載でずるいところっていうのも、両方あるはずで。そういう状態やから…ハッとする人は僕らにハッとしてくれるんやろうなと思います。全部、全部ほんまなんですよ。ウソとか無くて、全部ほんま。キレイなところも汚いところも、全部ほんまなんです。しょうがないんです。しょうがないっていうのは、諦めているとかじゃなくて、しょうがないんです」
——私はthe coopeezを聴くことによって、自分の中にあるそういう考えを肯定したいのかもしれないです。
「……ありがとうございます。そういう人、いっぱい居ると思うんですよね……」
——仲間もいないしやり方もわからないままに、バンドがやりたいという気持ちだけで行動し始めたのが大学生の頃なんですよね。
「思い立ってから、ライブハウスで働いてみたらどうにかなるかなって、大学4年生の夏くらいから就活もせず…。そのままずっとライブハウスで働きながら、バンドをやっています。音楽が好きって言っても、ちっちゃい頃から沢山聴いてたとか、他のバンドの人みたいにものすごく詳しいとかでは全然なくて、月並みに聴いているくらいだけど、単純にかっこいいと思ったんですよ。でもサークルとかに入ってないし、メンバーもいない、だけどやらんままやったら後々絶対に後悔すると思って、とりあえず始めてみたら…、気がついたらこんなことになっていました。ライブをやり始めてから、今年で10年かなあ」
——気がついたら10年ちょっと経ってる、ってすごいことですよ。
「そんなに経っている実感ってなかったですけどね」
——バンドを組んだ当初は、デビューしたいとか大きな箱でやりたいとか、そういうわかりやすい目標はあったんですか?
「Zepp Osakaに出たいって思ってました。デビューとかじゃなくて、とにかく沢山の人の前でやりたかったです。昔からステージの真ん中に立っている人に対する憧れが強かったから、真ん中に立って大勢の人の前で歌いたいっていう気持ちがいちばん最初にありました。もしも、いっぱい目立った人生を送って来ていたら、バンドはやってなかったかもしれない。ライブの意味とか、コミュニケーションとか、そんなこと最初は考えてなくて、とにかく真ん中に立って歌いたいだけ。それまでずっと絵を描いていたから、自分が歌を作ること、それを自分で歌うことも当然で、それ以外の方法なんて思いも寄らなかったです。勝手っちゃ勝手ですよね、自分が作ったものを歌って目立ちたいので、それを一緒にやってくれる人いませんかっていうメンバー募集ですから(笑)」
——でも、それを言えてしまうって、すごいことだと思いますよ。
「単純に、やりたいことをやるために、一緒にやってくれる人を探さんとあかんっていうだけの発端だった。僕は考える過ぎる部分と、超楽観的でどんぶり勘定なところも共存していて、これだけ人の言葉を気にしたり深読みしたり悪いふうに考えるところと、まあなんとかなるんちゃいますかって思うところの両方あるんです。不思議ですね、こうやって喋っていると、自分でも納得するんですけど、沢山ある選択肢から選んだんじゃなくて、元々そんな選択肢を考えもしなかったっていうだけで、ここまでやってきているような気がする」
——アルバム『newbalance』に関しては、前作『GOLDENTIME』がリリースされてからすこし時間が空きましたよね。今作は曲ごとにすごくユニークで音楽としても面白いんだけど、特に詞の内容が前回と立ち位置が変わったような気がしたんです。自分自身のことを歌っているのは間違いないんですけど、前作はちょっと客観的というか、一歩引いた場所から歌っているような気がしていて。これは自分のことですって言い切らない距離があるというか。でも今回は、これは自分です、自分のことを歌っていますってはっきりと宣言している印象を受けたんです。自分と向き合うことを決めたというか。
「それは意外…というか、自分でも意識はそんなしていなかったです」
——心境の変化や、意識があったわけではないんですね。
「意識的には…多分していないですけど、曲調が…前より真面目になったからですかね(笑)。手法や曲の発生源みたいなものは全然変わっていないと思うんですけど。ひょっとしたら……、しゃあないなっていう感じが出ているのかもしれないです。取り繕ってもしゃあないなっていうことに対して、前よりも悪あがきをしなくなったのかもしれない。理想とか憧れに近づきたいっていうことに対しても」
——前は悪あがきしていたんですか? でも近づくことが目標ではないですよね? そのような存在、っていうイメージではあるけど。
「憧れに対してそうなりたいと思うから悪あがきってするじゃないですか。これは諦めとかじゃないんですけど、憧れの対象に近づくのが無理だというのを受け入れだしたというか。そういう意味では、ダメとかだらしないというところが、いいとか悪いとかじゃなくて、それも含めて自分だって言っていくしかない。術がない…どんどんどんどん術が無くなって来ているんじゃないですかね。前から思っていることですけど、術がない。これしかない」
——言い切りましたね。
「コンプレックスとか言ってますけど、歌わなくて済むならそんなこと歌わなくていいと思うんですよ。強い人間であるならば強いことを歌っていけばいい。でも僕はそういう人間にはなれない。年齢的に若くないことや、結果としてこういう状態やから、それらを武器だと思ってやっていけるかどうかで。それしか術がないと思ってやっている。「テレパシー」(『newbalance』収録)で“僕はこれからの人生を賭けて、僕は今までの自分を救うのさ”と言っているのも、そうするしか過去が報われることがないから、それしかないんですよ。これからの日々で昔を肯定していかないと、もう絶対的に過去は成仏しない、それだけ。かっこ良くなりたいって言っても、無理、術無しです」
京都の河原にて。撮影=いとうさわこ
——活動するにつれてお客さんが増えてきて、いつも観に来ているお客さんとか居ると思うんですけど、自分たちを観に来ているっていうことを実感することで、意識的に変わったことはありますか?
「ライブに対しては、だいぶ考え方が変わりました。変な話しなんですけど…、いや、別に変な話しでもないんですけど、昼間から言う話ではない…。ライブって、ある意味セックスやと思うんですよ。1対1ではなく1対不特定多数ですけど、やらしい感じじゃなくて、成立する感じっていうのが、同じなんじゃないかなって。今までは自分から溢れてくるものをぶつけてるだけ、…どう思われようがぶつけるだけで」
——それは自慰行為ですよね。
「でもある時に、誰かのために作ったわけじゃない曲に共感して、何度も聴きに来てくれている人たちに対して、やっぱり思いやりというか、そういう気持ちがないと絶対にあかんなと思うようになった。それは感謝の気持ちもあるし、こっち側の喜びでもあるし。僕は小さいときから、人に喜んでもらうっていうことが単純に好きやったっていうのもありますね。だから自分たちが気持ちいいだけじゃだめだし、ホストみたいにこっちはいたって冷静で相手を喜ばせるだけでも面白くない。両方が心地よくて、理性的のような衝動的のような、良いバランスや高揚感を求めている。そういうところを考えたときに、セックスと似てるなあと思うっていうか」
——うん、その感覚、私はお客さん側ですが、わかる気がします。
「僕だけかもしれないんですけど、僕は基本的にライブで笑わないんです。笑わないどころか、なんでそんなに辛そうな顔して歌うんですかって聞かれるくらいで。これまたこう、セックスに似てるなと思ったんです。気持ちいいって言いながらにこにこ笑ってるやつっていないじゃないですか。汗もかくし体力も使って、必死なわけで。猿がマスターベーションをし過ぎて死ぬっていうことがあるくらい、ある種、命を削っている行為なんだけど、それが上手くいったときに、双方になんとも言えない、言葉には代えがたい、精神的な快感ある。ライブや言うても、よくよく考えたら、めっちゃ疲れるし、なんやってんあの30分間はって思う、べつに要らない時間かもしれないじゃないですか。でもそれを求めているあの感覚は、理屈じゃなく、本能の部分だと思っているから。だからもっとライブについてちゃんと考えなきゃだめだと思っていて」
——聴いている側もそれを求めている思います。ライブを観て言葉にできないけど心に響いくるのは、まさに本能で感じているところだから。ライブのときの藤本さんは、かなりぶっとんでいて、予想外の動きをしたり、その辺乗っちゃったり、危なっかしくて目が離せない瞬間が多いけど、そういうセンセーショナルなことを狙ってやってるわけじゃなくて、心の底から湧き出てくるものが原動力になってるじゃないですか。
「いつまであんなん出来るかわかんないですけどね…。」
——ライブ後には魂が抜けてしばらくぼーっとしてしまうくらい自分の身を削ってやっているのがわかるので、早死にしないで欲しいなあと思うばかりです(笑)。
「死にたくは……ないですねえ……。とりあえず……売れたい……ていうか、認められたいです。周りに比べて劣等感はあっても、自分たちが作った曲に対しては、最高だって自信があります。2014年からはね、自分の想いに対して素直で居ようと思っているんです。欲望や下心も含めて、芽生えた気持ちに従って生きるのは、周りをかき混ぜるし、迷惑もかけるし、痛い目に遭うときもあると思うんですけど。かといってそれを黙って押し殺しても良いことないなっていいかげん知ってるんですよ。まずは言うだけ言うてまえ、あかんかったらあかんときやろって」
——自分が想いをちゃんと伝えて初めて、相手の気持ちが変化したり動いたりするから、言わないと何も始まらないと思うんですよね。言ったことで結果的に相手を傷つけるようなことになってしまったら、それは謝ればいいんです。でも言わないと、相手はこちらがそう思っているって知らないから、何も始まらない。
「そう、そうです。なんかわからんけど、結局そういうことやったんやっていう事後報告というか、後で気づくことばっかりですよね。先のこと考えていたら不安になるし、考えんとこっていうのは、ある種逃げなんですけど、でもなんとかしてやるということはずっと思っている。そういう欲求がこの年になってようやくはっきりと出てきました」
the coopeez●ザ・クーピーズ
山本 聡 (Ba)、森田夏音(Dr)、藤本浩史 (Vo/Gt)、小川 宏実 (Gt)
2002年始動、2004年に初ライブ。メンバーの入れ替わりを経て現在の体勢に。2012年12月に1st Full Album 『GOLDENTIME』をリリースし、翌年の JOIN ALIVE 2013、ネコフェスなどのフェス・イベントに出演し、精力的に活動。そして今年5月に、待望の2nd Full Album『newbalance』をリリースし、現在は全国ツアーの真っ最中。ちなみにアートワークは全て藤本氏が手がけており、制作依頼も随時受付中だとか。
the coopeez newbalance tour
7/05(土) 鹿児島club cave
7/06(日) 福岡四次元
7/11(金) 千葉LOOK
7/12(土) 新潟CLUB RIVERST
7/17(木) 大阪Pangea
8/03(日) 松本alecx
8/04(月) 渋谷TSUTAYA O-Crest
8/09(土) 広島BANQUET
8/10(日) 長崎Studio Do!
8/23(土) 神戸ART HOUSE
8/24(日) 徳島GRINDHOUSE
8/25(月) 松山Double-ustudio
9/14(日) 京都MOJO(レコ発ファイナル京都編 ワンマン)
9/27(土) 渋谷TSUTAYA O-Crest(レコ発ファイナル東京編)