例えば、音楽やアートが好きな人ならば、UKに憧れを一度は抱いたことがあるような気もします。多くのアーティストを輩出しているのみならず、風景に魅力を感応出来る点が多々あるからです。ちなみに、私の最初のUKは00年代の後半、オックスフォードという学生街でした。しかも、タイトな勉学のためでありまして、楽しめる雰囲気もないものでした。その後、コンサートなどでロンドンも訪れることもありましたが、やはり、初めてのときの印象が鮮烈に残っています。
そのときは時間の間隙を塗って、ロンドンにも出まして、大英博物館、ピカデリーサーカス、トラファルガー広場辺りを巡りながら、大好きな曲のキンクスの「ウォータールー・サンセット」を口ずさみつつ、街を歩く気分は悪くなく、調子に乗って、広場で鳩に餌をやったら、管理員みたいな人に怒られたりした記憶もよぎります。
さて、オックスフォードといえば、レディオヘッドという世界的なバンドを輩出した場所として知られているかもしれませんが、ロンドンの中心的な喧騒に一歩、距離を置いた閑静な昼間を迂回するように、夜はパブやクラブに誘蛾灯のように惹きつけられました。現地のパブが好きだったのは、流れている音楽や雰囲気に依拠するのかもしれなく、それこそ、キンクスの『マスウェル・ヒルビリーズ』のジャケットそのまま、みたいなムードがあって、そこで談笑や日々の憂さを溶かしてはシガレッツ、コーヒー、アルコールに表情を緩ませていました。日本でもUK型のパブがありますが、リアルにクイーンズ・イングリッシュに囲まれつつ、多くの知っている曲が流れては耳が奪われる瞬間。ビートルズ、ストーン・ローゼズ、ブラー、オアシス、マニック・ストリート・プリーチャーズ、プライマル・スクリームなど響きが違うように聴こえた感覚をめぐりました。
イメージ含め、よく言われます「食事が美味しくない」と言うのは正しくもありますが、相対的なものだとも思います。確かに、日本人の繊細な味蕾には合わなくて、即席麺に頼ったというケースもありましたが、色々食べてみた結果、当たり前ですが、存外、自身の中でのバイアスが抜けていった側面が残りました。例えば、牡蠣(OYSTER)。UKでは、そもそも一年を通し、牡蠣が食べられます。なぜならば、アイルランドやスコットランドの湖で年中獲れるからです。といえども、安価ではありませんし、「相応の店」の選択が要ります。私は、現地の方に薦められましたオイスターバーで食べましたが、なかなか美味しかったです。また、日本でもメニューに入っているところが増えましたフィッシュ・アンド・チップス。テイクアウト・フードといえば、ハンバーガーやピタ、サンドイッチも強いですが、これもやはり、ポピュラーです。個人的に、ポテトの多さや重さにやられてしまいましたが。加え、ロースト・ビーフにスコーンも入るでしょうか。多国籍料理を食べられますし、日本料理もありますが、元来、UKは物価指数的に対・東京と置きましても、結構なものなので、「いい値段」がする店も多いです。
現地で、フレッド・ペリーのポロシャツを買い、それなりにカリキュラムをこなし、親しくなったアメリカの方と「日本はクールか、クールじゃないか」と論争したのも良い経験で、彼の想定する日本が数年ほど前ですから、アニメーション、スシ、テンプル、ゲイシャ辺りを行き来していたのは面白かったものの、想えば、日本に来られる海外の方の写真を見ますと、工事現場の看板やよく分からない路地を撮っていましたり、名所と呼ばれる真ん中とズレていることがあるというのを推察しますと、記念品のように、ビッグ・ベンをフレームにおさめていた当時の自分というのは「まだまだ」なようだった気も致します。ありきたりの記念品を多く集めましても、それは代替される可能性も含むからです。個々に大切な記念品とは、誰もが愛する名所や最大公約数ばかりではないように。
きっと、なんらかの寄り道したときに見つけたところがささやかな宝物になるかもしれず、つねに時間的なタイミングが合わず、寄ることができなかった街角の小さなベーカリーショップの灯りが消える前に間に合い、買ったスコーンにスーパーで手に入れたジャムをつけて食べた味が妙に残っているのもそういうことだとしましたら、まっすぐマニュアルどおり、目的地に向かうばかりがすべてではないような想いが今は確信に変わってもいます。もちろん、なんでも一度は体験をしておくに越したことはありませんが、名所や型どおりの道を行くばかりがすべてではないのは旅含め、人生もそうなのかもしれません。遠回りもときに近道になることもあるからです。
まつうら・さとる●1979年生、大阪府出身 なにか大変なことも多い中、多くの人たちのお蔭で支えられ、進めているような日々です。野草図鑑を携帯しながら、道ばたの花を調べたりするのが愉しくなってもきたのですが、まだまだ勉強がいるな、と思っています。インドネシアの音楽シーンの混沌振りに魅かれもするこの頃です。