アカデミー賞が発表されたばかりということもあって、この時期のラインナップは、観応えのある秀作ぞろいだなあ……ということもあり、今回はちょっと趣を変えて、オスカー絡みの映画3本について、一気に書き飛ばしてみたいと思います。
某月某日:新宿バルト9で、『ゼロ・ダーク・サーティ』。キャスリン・ビグローという女性監督については、正直ほとんどノーチェックだったのですが、2008年の前作『ハート・ロッカー』(作品賞、監督賞などアカデミー賞6部門を受賞)のあまりのハードボイルド&ハードコアっぷりに激しく戦慄した身としては、やはり外せない一本ではないかと。
CIA及びアメリカ特殊部隊による、10年がかりのビンラディン捕獲・殺害ミッションを描いた映画です。や、今回もまた、ぶっ飛びましたとも(汗)。細やかな事実を淡々と積み重ねながら、なおかつ手に汗握る緊張を持続させていく、その手腕たるや! しかも、そこに“甘さ”が一切無いという……。監督のみならず、今回は珍しく主人公も女性なのですが、いわゆる“女性ならではの目線”とか別に無いし(女性が主人公のアメリカ映画で、その旦那や恋人らしき男性が一切出て来ないって、実はすごい珍しいかも)……かといって、いわゆる軍隊チックな“ホモソーシャルの世界”を礼賛しているわけでもなく、キワキワの情況の中、ただひたすらに焦燥を募らせてゆく人間たちの姿を、もはや性別を超えた“神の目線”で、彼女は冷徹に見据えてゆくのです。そして、映画のクライマックスである襲撃シーンの異常なまでの臨場感。深夜0時30分(ゼロ・ダーク・サーティ)に決行されたこの作戦の模様を、手持ちカメラを中心に様々な角度で複合的に捉えつつ、きっちりリアルタイムで魅せ切る“編集”の技は、本当に神懸かっていると思いました(どうやら、同じくクライマックスの臨場感溢れる“編集”が秀逸な映画『アルゴ』と同じ人がやっているようです。ちなみに、アカデミー賞編集賞は、作品賞にも輝いた『アルゴ』が受賞)。しかし、そんな臨場感溢れる“作戦”の果てにあったのは、達成感などではなく――正義や真実を超えた“無常”感であるという。その意味で本作のラスト・シーンは、とても印象的なものでした。主人公・マヤの頬を伝うひと筋の涙。それは果たして何を意味しているのでしょう? キャスリン・ビグロー――ある意味、今のハリウッドで最も骨太かつハードコアな監督だと思います。(※【作品賞】、【主演女優賞】、【脚本賞】、【編集賞】など5部門にノミネート。【音響編集賞】を受賞した)
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某月某日:日比谷TOHOシネマズ シャンテで、『世界にひとつのプレイブック』。デヴィッド・O・ラッセルという監督の名前を初めて知ったのは、確か『スリー・キングス』のときで、そのときは「すごい“才気の人”が現れたな!」と思ったものの、実は相当“短気の人”だったらしく……それゆえ長らく業界で干されたりとか、いろいろ大変だったみたいだけど、2010年の映画『ザ・ファイター』で見事カムバック。同作で、アカデミー賞、助演男優賞(クリスチャン・ベール)&助演女優賞(メリッサ・レオ)を獲得するなど、賞レースにも返り咲いた次第。そして、そんな“ちょっと壊れた大人”としての自らの経験(と恨み?)を存分に注ぎ込んだのが、この『世界にひとつ~』になるのかな?
や、実際問題、心の傷を抱えた主人公たちの立ち居振る舞いが、なかなかリアルに壊れていて――しかも、そんな彼らの周りにいる人たちも、やっぱりどこか壊れていて、それがある意味すごく可笑しいんだけど、その分切ない気分になるというか、胸をかきむしられるというか、それを見て笑っている自分以外の人間に対して猛烈な敵意を持ったりするという(俺も壊れてるのか?)、感情的には結構忙しい映画でした(微笑)。しかも、それが最終的には、見事なラブロマンスとして着地するという驚き。そう、本作の主人公たるイカれた男女は、ダンスを通じて心の平穏を取り戻して行くのですが……や、「健全な肉体には健全な精神が宿る」みたいな物言いはあまり好きじゃないけど、身体を動かすことにある種のセラピー効果があるっていうのは、実際確かにあるわけで。音楽(とりわけライヴ)にも、その類の効果があるような気がします。あとはやっぱり、プロ・スポーツ。あるチームを(みんなで/ときには親や兄弟と一緒に)応援するっていうのは、結構大事なことなのかもしれません(本作では、アメリカン・フットボールの地元チームが重要な意味を持っています)。震災後にスポーツが果たした役割とか。もちろん、そのいずれもが“人と人を繋ぐもの”であるというのが、本質的には重要なんだろうけど……SNSもいいけれど、もっと身体性をともなう“何か”、あるいは興奮を喚起する“何か”として。人生の“滋味”って、実はそういうところにあるのかもしれません。そんなことも含めて、『世界にひとつのプレイブック』――という邦題の是非はさておき(原題は“SILVERLININGS PLAYBOOK”)、良い映画だったと思います。(※【作品賞】、【監督賞】、【脚色賞】、【主演男優賞】、【助演男優賞】、【助演女優賞】、【編集賞】など8部門にノミネート。ジェニファー・ローレンスが【主演女優賞】を受賞した)
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某月某日:渋谷シネパレスで、『ジャンゴ 繋がれざる者』。ワオ、噂に違わぬ面白さだぜ! タランティーノが西部劇(実は“南部劇”だけど)を撮って、それが面白くないわけないでしょう! ヨーロッパから流れて来た賞金稼ぎと出会い、奴隷の身から解放された主人公ジャンゴが、愛する妻を取り戻すため巨悪に立ち向かう……というのが一応のプロットですが、物語は意外と単純に進みません。巧みな話術とジェントルな人あたりの良さを持った賞金稼ぎ=キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の魅力的なキャラクター、そしてジャンゴが立ち向かう“巨悪”こと南部の大農園主=カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)と、その奴隷長たるスティーヴン(サミュエル・L・ジャクソン)の秀逸なキャラクター……や、ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)の見せ場が、なかなかやって来ないんですよ(苦笑)。気がつけば、2時間45分の超大作。うーん、これはいかにも座りの悪い尺でした。“長過ぎる”って話じゃないんです。この映画は、確かにジャンゴの映画だけど、それ以前にキング・シュルツの映画であり、カルヴィン・キャンディの映画であり、スティーブンの映画であり……あと、饒舌な会話っていうのは、タランティーノ映画の醍醐味のひとつだからして――や、恐ろしいことに、“ちょっと短いんじゃないか?”というのが、いろいろ考えた揚げ句に弾き出された個人的な結論だったりするのです(汗)。や、この映画、結構な長尺の割に、考えてみたらいくつか腑に落ちないところがあってさ……まずはキング・シュルツの過去。そして、実はそこまで悪者ではないカルヴィンの悲哀と、その下僕のフリしたスティーブンの狡猾さ。これ、ホントは3時間超えてるんじゃないの?という気がしないでもないし、実際そんなフィルムが存在するような気もします。とはいえ、このヴァージョンでも十分面白いですよ。前作『イングロリアス・バスターズ』同様、本作もとにかくラスト・シーンでスカッとすること間違いないので。というか、そうやって観た後に「スカッとしたぜ!」という感想が思わず口を突いて出てしまうところが、タランティーノ映画に対する我々(ボンクラ男子)の信頼の証なのかもしれません。うん、やっぱ面白かったわ!(※【作品賞】、【撮影賞】、【音響編集賞】など5部門にノミネート。クリストフ・ヴァルツが『イングロリアス・バスターズ』に続いて2度目の【助演男優賞】を獲得。タランティーノ自身も【脚本賞】を獲得した)
むぎくら・まさき●LIGHTER/WRITER インタビューとかする人。音楽、映画、文学、その他。基本フットボールの奴隷。