――ちなみに今回のアルバム『Wonders』を作っていく上でインスパイアされた、映画や音楽やアートなど、何かありますか?

 

「色々ありますけど、今ぱっと思い浮かんだのは、『かいじゅうたちのいるところ』という映画。あの世界はまさに私の思ってる心の旅のようで、私の心の中にも怪獣はいるんです。その怪獣は、子供の頃に屋根裏部屋が大好きで、そこにある絵本をずっと読んでいて。大人の怪獣たちが戦ってるところに混じりたくないから、屋根裏部屋で絵本を抱きしめながら、星を見上げてるみたいな怪獣のイメージ。なんだけど、その怪獣が、気付いちゃうんです。自分が見ている、〈綺麗だな〉と思ってた星空って、この窓のサイズだけしか見てなかったんだ、って。〈わー綺麗な星空!〉と思ってたのに、パッと屋根が全部飛んでった時に、〈うわ、こんなに怖いところだったんだ!〉って思ったり、〈月があるんだ!〉って気が付いたり。そんな感じで今、自分が信じたいって思ってた子供の心の綺麗な部分ってすごく一部で、それが世の中の全ての素晴らしさじゃないんだって思って。こないだ、道を歩いてたら、小学生の男の子が、前から私に向かって歩いて来たんだけど、ずーっと左を見ながら歩いてて。何か、好きなものが見つかったのか、私がいるのも気付かずによそ見をしながら真っ直ぐに歩いてきて。そして私にバンッてぶつかったのね。そこでハッて気が付いて、また歩いていったんだけど。その男の子に、私はすごく似ていたと思った。〈あれは素敵だな〉と思うところを見て、それこそが世の中の全ての素晴らしさだと思って、そこに辿り着こうとずっと見てるんだけど、意外に世の中はもっと広くて、もっともっと素敵なものも、もっと汚いものもいっぱいあって。今はそれがよくわかるから。今まで素敵だと思ってたものが全部、なくなっちゃったから。もう一回、ちゃんと生きたい」

 

――で、それを音楽で作っていくってことですよね。

 

「うん、そうなの。だから、明確な答えは実はないんだけど。ないものなんだ、っていうことが自分が今、見出せている安心な答えかな。それが原動力になってる」

 

――そして、いつの間にか無くしてしまった、取り戻さなきゃと思っていることもあって。

 

「そうですね。やっぱり素敵なものは欲しい。でもその素敵なものの価値観が大きく変わったかな」

 

 

――なんか曲を聴いてると「愛」というものにすごく疑問を抱いていますよね。

 

「昔からそうです。だから恋愛が苦手だったし」

 

――「ナイト・イン・サイダー」でも〈愛するってことはナイフを振り回すようなものだ〉とすら唄ってますもんね。

 

「ほんとにそう思う。自分自身にも飛び火はかかってくると思うけど。みんな最終的には自分が一番大事なんだと思う。だけど誰かと一緒に生きるってことは人間には絶対不可欠なものだし。私、このアルバムの曲は去年の震災が起きてから作ったものが多いから、そういった意味でも色々と心を揺るがされちゃったところはあるんだけど。人の為に人の為にって思いながら、それがほんとに人の為になってるのかどうかって、自分にはわからないことで。〈愛してるからね!愛してるからね!〉って自分が思った所で、それがその人にとって愛として受け止められるかわからないし、逆にその人をすごく傷付けてる場合もあると思うし。だからなんか、もっと丁重に扱わなくちゃ、ナイフなんだからって。愛だからたくさんあればいいってもんじゃないっていう風に考えちゃって」

 

――自分がその人を愛することで傷付けてしまうかもしれないという恐れがあると。

 

「そうです。それは経験からくるものでもある。やっぱり一人の気持ちじゃ成り立たないものだからね。自分が思いやりだと思ってしたことが、その人の立場からすれば、とっても迷惑です、ってことだったりとか。あるよね」

 

――「wonders」って曲でもそういうことを唄ってますよね。

 

「うん、〈愛のふりしたSOS〉って(笑)。これを作った時は、私が人のことを客観的に見て〈あの人のこういう生き方って最悪だと思う〉っていう気持ちとか〈あの人は絶対に自分の不安とかを隠してるから、ああいうことを言ったりするんだ〉って思いながら、皮肉めいて書いてたつもりなんだけど、今すごく自分に返ってきてます。歌いながらすっごく自分のことだなって思う。私も愛のふりして、いい子なふりして、ほんとの気持ちを隠してたりとか、してるじゃん!!と思って。そういう意味でもどっきりですよ」

 

――だからこのアルバムにおけるオルタナティヴって新津由衣の厄介な内面ですよね。

 

「厄介!! ほんとに!! 捨てられるものなら捨てたいと何度思ったことか」

 

――またそういう風に見られないし、誤解されがちでしょ?だから自分でもきっと気付かなくって「あれ、実は違う!!」って。

 

「そうなんです。私が信じてきたものが、何ひとつ真実じゃなかったってこと」

 

――それを正直に唄ってるから、しかもポップなメロディで。これはもう、かなりグイグイ来ますよ(笑)。

 

「ほんと、ポップって素晴らしいなと思います(笑)!それにね、私すごく、ロックが素敵だなと思ったポイントが、すごくファンタジックだなと思ったところにあって。何だかこう、あるのかないのかわからないものばっかりじゃないですか。ファンタジーなんてたぶんそうだけど、自分が〈ある〉って思わない限りは存在しない。だけどファンタジーはあるのかないのかそんなの関係なしに〈とにかくこういうものがあるんです!〉って言い切って、それを作り続けるっていうことは、すごくロックだなと思って。私はそういう意味でファンタジックなロックを作りたいし、それがやっぱり大衆のものであって欲しいんですよね」

 

――でもその言葉通りの見事な着地点で1枚、作れたと思いますよ。

 

「ほんとですか?」

 

――ロックの中にある魔法も、自分の中にある魔法も信じれてるし。ただ、面倒くさい自分がそこにいるし(苦笑)。

 

「面倒くさい、ほんっと!しょうがないよね」

 

 

(photo by hisana hiranuma)

 

 

――これから、まだまだ歌うべき自分自身っていうのはあると思うんですけど。どうですか?この、血の滲むような名刺がわり、みたいな(笑)、Neat’sの第一作目を作り終えて。

 

「そうだなあ~(笑)。いつも大衆音楽、大衆文化を作りたいっていう気持ちがあるんですけど。その覚悟をするにも、ただただ仮面を付けて大衆向きなことをするっていうことじゃないから、やりたいことはもちろん。だからそうすると、まず自分が仮面を脱がなきゃいけないっていうことが、途中なんです。脱ぎ切れてないと思う。まず、そのふたつが私の目標なんです」

 

――そしてライヴも楽しみです。戸高賢史(G)さんや林束紗(B)さんら、メンバーも素敵な方たちですし。

 

「うん、私とは違うフィールドで活躍されてる方ばかりなので、すごくアンバランスで。私が頑張るべきところがたくさんあるんですけど」

 

――もともとミュージシャン友達が多いの?

 

「でもロック・バンドというフィールドで戦ってる人たちに会ったのは、ここからがスタートなので」

 

――Neat’sをやるにあたって、そうした人脈も開拓していったんだ?

 

「そう、これからもっともっと開拓していきたいです」

 

――わかりました。なんか面白いし、大変だし、だね(笑)。

 

「でも良かったと思う、こういう生き方が出来て。ほんとに厄介だとは思うけど、自分自身が。だけど、やっぱり素敵なものがその先に見えるから、向き合い続けようと思うし。それが何なのかはまだわからないんですけど、素敵な結果が待ってるような気がしてならないから。そう思うと苦しいばかりではないですし、こうして作品を形に出来ていることは、すっごい幸せなことだと思います」

 

 

 

 

☆☆今後も楽しみなNeat’s。取材楽しかったです。久しぶりにお会いできて嬉しかった!

 

☆☆Neat’s 1st AL『Wonders』はオフィシャル・ウェブサイトhttp://www.neatsyui.com/にて発売中!!