2月はバレンタインデーもあるので「片思い」という題にしたんですが、まずは思いつくままにマンガを3作ほど。
最初は「ハチミツとクローバー」をば。
少し前の作品ですが今の高校生も知っていて、まだまだ読み継がれています。「動物のお医者さん」を読んで獣医になろうとした人を知っていますが、「ハチミツとクローバー」を読んで美大をめざした人も知っています。それくらい影響力を持った作品です。しかし、この作品、終盤まで片思いの連続でしたね。
つぎは「君に届け」です。これは風早の爽やかさにやられるマンガでしょう。もう爽やかすぎる。まるで完璧超人のようです。小説版もあるんですが、それも人気で図書館として大変お世話になってます。女子高生が「あの女同士の友情が良いんです!」って力説してました。
「失恋ショコラティエ」は、好きな女性のために主人公がチョコレートを作り続けるというのが大筋なんですが、途中にいろいろあって、もう結構ドロドロしちゃって…。上の2作と比べると純粋な感じがないかもしれません。でも、個人的には薫子というキャラが面白くて、もっと出番が増えるといいなあ、と思いながら読んでおります。
こうやって、女性向けのマンガを読んでると、少年の頃に「北斗の拳」や「聖闘士星矢」などにどっぷりつかってた男の子が、思春期になるとこういう女性向けマンガを読んできた女の人と恋愛をすることになるわけで、こりゃ敵わないのも仕方ないと勝手に納得するのですが、こんなことを思うのは私だけでしょうか?
イメージトレーニングの量が違いすぎるよ…。
さて、小説となると、近松秋江「黒髪」(『黒髪・別れたる妻に送る手紙』所収)は外せません。
これ、京の遊女に入れあげる中年男の話です。読んでいて、これは脈がないでしょ、と思うんですが、不思議な魅力のある作品です。小説の目利きたちも評価していて、例えば、北上次郎『情痴小説の研究 』、福田和也『最も危険な名作案内』、荒川洋治『忘れられる過去』などでも取り上げられています。青空文庫にも収められているので、ダメ男が好きな方はぜひ!
最後には大ネタを一つ。
なにかというと、「源氏物語」です。よく考えると、「源氏物語」も「片思い」がキーワードになっていると思うのです。義母である藤壺へ寄せる思いがあるからこそ、若紫を連れてきたり、女三の宮の降嫁を引き受けることになるんだと思うと、日本文学史上最も影響力を持った片思い小説といってもいいのではないでしょうか。大学受験のために「あさきゆめみし」を読んだ方も多いと思いますが、活字版はどうですか? 原文はもちろん、現代語訳でも挫折しませんでしたか?
そんな方は「ウェイリー版 源氏物語」はいかがでしょうか? これは、20世紀初頭にアーサー・ウェイリーが「源氏物語」を英訳して「TheTale of Genji」として出したものを、現代の日本語に訳したものです。『ドナルド・キーン自伝 』のなかで、ドナルド・キーンが心奪われて没頭したと書いていることからもこの本の影響力の一端が垣間見られるかと思います。平安時代の日本語から、現代の英語へ、そして現代の日本語へ、という少し変わった手順を踏んでいますが、それだからこそ試してみる価値があると思いますよ。
訳者であるアーサー・ウェイリーは、「源氏物語」だけでなく、「枕草子」の抄訳をしたり、「論語」を訳したり、李白や白居易に関する著作もある偉大な東洋学者だったにもかかわらず、一度も極東に足を踏み入れたことなかった不思議な人です。そんな彼の生涯は『源氏物語に魅せられた男』でなぞることができます。
その他にも源氏物語に魅せられた男たちはたくさんいます。藤原定家、本居宣長などはどんな風に「源氏物語」と向き合ったのでしょうか?
興味を持たれた方はぜひ『源氏物語ものがたり』をどうぞ。
のま・つとむ●東京生まれ。米子在住。学校図書館に勤務。センター試験も終わって受験生の緊張はピークに!図書館で少しでもリラックスしてほしい今日この頃。ところで、最近車中で聞くのは、ライムスターの『ダーティーサイエンス』とUNISONSQUARE GARDENの『CIDER ROAD』のどちらか。朝の凍える車内をあたためてくれます。