まるで、心の奥深いところをくすぐられるような、夢のようなユニットだった。シンガーソングライター・岡村靖幸さん、斉藤和義さんのユニット「岡村和義」。二人の天才が魅せたモンスター級のパフォーマンスはまさに奇跡。今回は、そんな「岡村和義」のツアー最終日の大阪公演(6月15日 Zepp Namba)のようすをお届けします。
「ずっと好きだった」と「ぶーしゃかLOOP」という二人の名曲をリミックスしたSEに乗せて、ステージの左(下手)から岡村さん、右(上手)から和義さんが登場。モスグリーンとピンクのスーツを纏った二人がセンターで握手を交わし(まるでCOMPLEX!)、半分にやけながらのハグ。「岡村和義」のライブは、コンコン…と岡村さんの鳴らしたカウベルを皮切りに「I miss your fire」からスタートした。1月から5か月連続で配信リリースされた第1弾で、ミディアムテンポのロックンロールナンバー。岡村さんの濃厚な歌声に大歓声が沸き起こった。和義さんはこのツアーのために自作したというブルーのギターで心地よいリズムを刻み、岡村さんは「オオサカッ!」「Hey!」とダイナミックに会場を盛り上げていく。さらに「大阪ベイベー、会いに来たよ」と言って観客を喜ばせて「自己紹介をするよ、いい?」と囁いた。大興奮の会場は、もうこの時点で完全に岡村さんにジャックされているのがわかるようだ。岡村さんのリードでそれぞれ名前を言ってから、「二人合わせて“岡村和義”です」。まるでK-POPアイドルのような、声を合わせての自己紹介にくすっと笑ってしまう。なんてチャーミングな人たちなんだろう。
2023年のクリスマスに発表された新ユニット結成。二人が飲み仲間だということは頭の片隅にはあったけれど、まさかのタッグに驚いた。“岡村ちゃん”“斉藤さん”と呼び合う二人(和義さんは“せっちゃん”と呼んでと言ったようですが岡村さんは拒否したもよう。笑)は、約10年前イベントの打ち上げの席でセッションを通して仲よくなったのだという。年齢は1歳違い(岡村さん1965年、和義さん1966年生まれ)で、デビューは岡村さん1986年、和義さんは1993年。岡村さんの出現はセンセーショナルだった。楽曲の良さ(奇抜さも含めて)はもちろん、他に類を見ないワードセンス、日本人離れしたダンス、そしてファンキーな歌声…唯一無二の世界観に惹かれ、何度もライブに足を運んだものだ。時は流れて2017年、和義さんを観に行った夏フェスで岡村さんに再会。変わらない“岡村ちゃん”の音楽とアップグレードされた麗しいダンスに大興奮した。思えば、時代に迎合せずオリジナリティーを追求するスタンスや一人でなんでもこなすマルチプレイヤーであることなど共通項は多い二人だった。
ツアーに向けて配信されていく「岡村和義」の楽曲がどれも途轍もなく好みだったことは言うまでもなく、ショー要素満載の“岡村ちゃん”とバンドや生演奏にこだわる和義さんの、一見異なるライブスタイルがどんなシナジーを見せるのか、とにかく楽しみだった。バンドは、岡村さんのツアーでもおなじみの田口慎二さん(Gt.)、佐藤大輔さん(Drs.)、“チーム斉藤”からは崩場将夫さん(Key.)、そして今回ニューフェースの小川悠斗さん(Ba.)という頼もしいメンバーが集結して二人を盛り立てている。ハンドクラップで盛り上がる「愛スティル」では哀愁漂う崩場さんの鍵盤とうなる田口さんのギターの対比が圧巻。続いて「少女X」「内緒だよ」などまだ音源になっていない新曲が披露された。エネルギッシュでダンサブルなリズムと不穏なギターリフ。初めて聴くメロディーでありながら、二人のイズムが詰まっていてすーっとカラダに入り込んでくる。「アップルパイ」はタイトルに反して骨太なロックバラードだった。メランコリックな美しいメロディーと和義さんの魂を注ぎ込んだギターソロに身も心も震えた。
岡村さんはステージを右に左にしなやかに移動しながら、フロアにクラップを求めたりマイクを向けたりして、観客との距離を縮めることにかけても天才だった。それは二人がお互いの楽曲をカバーするシーンでもみられた。岡村さんはかねてからお気に入りだったという和義さんの「夢の果てまで」(2015年『風の果てまで』収録)をより絡みつくような声でムーディーかつワイルドに歌い上げる。それは瞬く間にダンスタイムと化し、観客に投げキッスをしたりネクタイをとってシャツのボタンを外していったり…“岡村ちゃん”ワールド炸裂! そのたびにフロアからは悲鳴のような歓声が上がる。淡々とシックに歌う和義バージョンとのギャップに驚き、「みんなも一緒に歌って!」と煽る岡村さんにひるんでしまったのは私だけではないだろう(笑)。ベイべ(岡村さんのファン)のみなさんは知らないのでは? と勝手に心配もしたが、何度も「オオサカッ!」と呼びかけて見事にシンガロングをもぎ取った岡村さんのバイタリティーにただただ脱帽。やっぱりすごい人だ。対して和義さんはギターでロマンティックなフレーズを奏でていく。そして第一声、〈いけないことかい?〉と発すると、感嘆の声が上がった。名曲「イケナイコトカイ」は反則だ。和義さんの艶っぽいファルセットは一瞬でフロア中をとろけさせた。さらに「岡村和義」の珠玉のバラード「サメと人魚」では、二人のハーモニーと“ギタリスト斉藤和義”の渾身のアウトロにしばらく拍手が鳴り止まなかった。
岡村さんは興奮冷めやらぬ私たちの想いを代弁するように「今のギターやばくなかった? 素晴らしかったね」と微笑み、和義さんを労った。そして「じれったい」(安全地帯)、「夏の終りのハーモニー 」(井上陽水・安全地帯)、アコギとリズムマシンなどを駆使して(崩場さんと3人で)YMOの「テクノポリス」を披露したあと、今度は二人だけでジャカジャカとアコギを鳴らし即興セッションのコーナーへ。ブルース調で岡村さんが「大阪ベイベー」とシャウトし、アドリブを交えてご当地ネタでフロアを盛り上げると、和義さんは、待ってましたとばかりにお得意の下ネタ(妄想劇場・関西弁バージョン)で応戦。ソロライブではバンドメンバーにスルーされてばかりの下ネタだけど、失笑しながらも乗ってくれる岡村さんに感謝した和義ファンは多かったのではないだろうか(笑)。
「靖幸二度漬け禁止やで」と名付けられたセッションは笑いだけでなく、ふだんの二人がうかがえるようなアコギの競演に盛り上がった。再びバンドメンバーを迎え入れての「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」「ずっと好きだった」では会場のボルテージはMAXに。間髪入れずに鳴らされたドラムから、本編ラストの気骨溢れるロックナンバー「カモンベイビー」へとなだれ込む。岡村さんは精力的に歌声を届け、和義さんはスリリングでうなるようなギターリフで魅せていく。終盤には一転して二人のアドリブ(下ネタ)の応酬と和義さんのダンスタイムに会場中笑いに包まれた。今回の「岡村和義」ではソロライブとは違う一面を見せたいとのことで、岡村さんはMCを、和義さんはダンスを自らに課したのだという。ステージをモデル歩きする和義さんが、岡村さんの「1タイム!」「2タイム!」の合図ではにかみながらぎこちないポーズを決めていく。そのたびに「はい、拍手ー!」と盛り上げる岡村さん。また、ステージの上手で観客にビー◯クを見せる和義さんを隣で見守り、保護者のごとく手をがっしりと掴んで下手へと引っ張っていく岡村さんと力なく連れ去られる和義さんがおかしくて、爆笑のうちに本編が終了した。
アンコールは岡村さんがアグレッシブにベースを鳴らし、和義さんがドラムでビートを刻んで、たちまちセッションが始まった。そこへバンドメンバーが一人ひとり音を重ねて、ジャジーでクールなグルーヴを作り上げていく。洗練された美しいサウンドスケープはそのまま「春、白濁」へと突入した。「岡村和義」結成のきっかけとなった楽曲で二人の“好き”が純粋にこめられているように感じる。岡村さんはポエトリーリーディングとキレのあるダンスで魅了し、和義さんは田口さんとギターをかき鳴らした。ラストはツアーに向けて急遽配信されたロックチューン「少年ジャンボリー」。現代の風潮を二人らしいメッセージで〈OK! Rock’n Roll! Jamboree! Come On!〉とシャウトし、会場は渾然一体の大合唱で幕を閉じた。最後に「どうもありがとうございました!」と律儀にお辞儀をして去っていく岡村さんが目に焼き付いている。
少年のようにひたすら音楽を楽しむ二人の天才がタッグを組むと、足し算ではなく掛け算以上の爆発力があることを体感した。刺激的で未知の魅力にときめいた「岡村和義」の世界。音楽、人柄、すべてがチャーミングな二人は無敵だ。ツアーは一旦終了したが「岡村和義」はこれからも継続していくとのこと。「アルバムも出るかもしれない、そしてまたツアーがあるかもしれないよ」という岡村さんの言葉に期待したい。秋からはお互いソロでのツアーが控えている。「岡村和義」がもたらしたさまざまな刺激や手ごたえがどんな風に現れるのか(それとも現れないのか…笑)、これからも二人を追いかけていきたい。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日は京都・金剛能楽堂で行われた真心ブラザーズの弾き語りライブツアーへ。まさかこの曲を弾き語り!? っていう楽曲やレアな楽曲など充実のラインナップで盛り上がったのはもちろん、YO-KING、桜井さんのトークが面白すぎて笑い泣きでぼろぼろ。次から次へと被せてきて、まるでお笑いライブ(笑)。真心の二人は最高の癒やしです。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第85回「凛とした笑顔とタフな歌声で魅了した初ホールワンマン 石崎ひゅーい LIVE 2024“宇宙百景”」
第84回「20年ぶりの再会と予測不能な最強ユニット“岡村和義”始動に向けて」
第83回「見えなくなってもずっとそばにある。祈りのような映画『i ai(アイアイ)』を鑑賞して」
第82回「ぶっきらぼうなロマンティスト 純粋にロックを貫いたチバユウスケの品格」
第81回「3年の延期を乗り越えて…キャストの結束を感じたM&Oplaysプロデュース『リムジン』観劇レポート」
第80回「アニキが喋った! 歓喜に沸いた岡山の夜 “GRAPEVINE TOUR 2023”」
第79回「斉藤和義さんライブツアー“30th Anniversary Live 1993-2023 30<31〜これからもヨロチクビーム〜”」
第78回「今、関西がアツい! 2023夏はまだまだ終わらない」
第77回「涙のシンガロングで終幕した10周年アニバーサリーイヤー・石崎ひゅーい “『キミがいるLIVE』-Piano Quintet-”」
第76回「“今、ここにいる” 江口洋介さんがデビュー35周年のスペシャルライブで語った大人へのエール。『BE HERE NOW~35th Anniversary~』」
第75回「神々しい佇まいは露伴そのもの。高橋一生さん主演『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を鑑賞して」
第74回「2023年4月・想いのカケラたち」
第73回「介護の厳しい現実を考える、松山ケンイチさん×長澤まさみさん主演『ロストケア』を鑑賞して」
第72回「歌に託した想いと“最愛”のGRAPEVINEリビジットツアー『in a lifetime present another sky』」
第71回「万事休すからのスペシャルギグ! 斉藤和義さん弾き語りツアー『十二月~2022』」
第70回「“いつか星空の下で” 石崎ひゅーい『ナイトミルクLIVE 10th Anniversary〜」
第69回「名実ともに兼ね備えた純白のアイドルホース・ソダシの底力」
第68回「「水墨画は心を映し出す。横浜流星さん主演『線は、僕を描く』を鑑賞して」
第67回「迫力ある魔法に驚きと興奮の連続! 『ハリー・ポッターと呪いの子』観劇レポート」
第66回「自らを追い込んで飄々と一人芝居に挑む! 高橋一生さん『2020(ニーゼロ ニーゼロ)』観劇レポート」
第65回「渾身の力で“天”に届けられたメロディー。石崎ひゅーい “10th Anniversary LIVE 『、』(てん)”」
第64回「能楽の舞台に舞い降りたポップスター! アニメーション映画『犬王』を鑑賞して」
第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第62回「10年分の想いを花束にして。石崎ひゅーい Tour 2022“ダイヤモンド”」
第61回「すべてを愛せるツアーに。中村 中さん『15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-』」
第60回「戻らないからこそ愛おしい。映画『ちょっと思い出しただけ』を鑑賞して」
第59回「ジギー誕生50年!今なお瑞々しさと異彩を放ち続けるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』」
第58回「2年ぶりの想いが溢れたバンド編成ライブ! 石崎ひゅーい 「Tour 2021『from the BLACKSTAR-Band Set-』」
第57回「中村倫也さんと向井理さんの華麗なる競演! 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”