荒木飛呂彦先生の人気アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ『岸辺露伴は動かない』が高橋一生さん主演で実写化されて約3年。第1期(2020年)、第2期(2021年)、第3期(2022年)にNHK総合で放送された岸辺露伴がついに映画になった。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は(漫画プロジェクトの一環として)ルーヴル美術館からの依頼を受けて荒木先生が描き下ろされた同名の原作をもとに、渡辺一貴監督をはじめドラマシリーズのスタッフの方々が再集結して(フランスでは現地スタッフの参加も)制作されたもの。スクリーンの至るところから露伴への愛情が溢れていた。

 
 
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<STORY>
特殊能力を持つ、漫画家・岸辺露伴は、青年時代に淡い思いを抱いた女性から
この世で「最も黒い絵」の噂を聞く。
それは最も黒く、そしてこの世で最も邪悪な絵だった。

時は経ち、新作執筆の過程で、その絵がルーヴル美術館に所蔵されていることを知った露伴は
取材とかつての微かな慕情のためにフランスを訪れる。
しかし、不思議なことに美術館職員すら「黒い絵」の存在を知らず、
データベースでヒットした保管場所は、今はもう使われていないはずの地下倉庫「Z-13」だった。
そこで露伴は「黒い絵」が引き起こす恐ろしい出来事に対峙することとなる…。
(公式HPより)


 

少し風変わりで、リアリティを重んじ面白い漫画を描くためには手段を選ばない岸辺露伴。取材先で遭遇する奇妙な出来事に、特殊能力「ヘブンズ・ドアー」を用いてその人物の心や人生を“本”にして読み、時には攻撃されボコボコになりながらも立ち向かっていく。クールに見えて実はアツい露伴像を、もともとジョジョシリーズの愛読者で露伴のファンだったという一生さんが見事に体得している。言葉の操り方や俺様的な佇まい、庭の豊かなグリーンとやわらかな木漏れ日が差し込む露伴邸での指の体操に至るまで、どこを切り取っても荒木先生が生み出した露伴にしか見えない。飯豊まりえさんが演じる天真爛漫で天然キャラの担当編集者・泉京香との掛け合いは映画でも健在。嚙み合っていないようでいて、実はより一層バディ感が増しているかも。思わずくすっと笑ってしまうシーンや、もちろん今回も京香のファッションも楽しみのひとつ。また、青年期の露伴を演じた長尾謙杜さんは澄んだ瞳で、ストーリーの鍵を握るミステリアスな黒髪の女性・奈々瀬(木村文乃さん)に翻弄されるナイーブな一面と自分を見失わない芯の強い部分を情感豊かに表現していた。「ヘブンズ・ドアー」の発動を思い留まる表情は必見。また、木村さんの浴衣姿や菊地成孔さんの音楽も相まってノスタルジックで美しいシーンになっている。


今回、パリ・ルーヴル美術館でのシーンは一生さん(露伴)ファンだけでなく、パリ、ルーヴルファンの心もくすぐったのではないかと思う。ルーヴル美術館で撮影することができたのは異例のケースだそうだが、この作品が(先述の)荒木先生のルーヴル美術館との共同企画作品の実写化ということや以前一生さんがルーヴル美術館展のオフィシャルサポーターを務めていたというご縁もあったのかもしれない。今年3月に閉館時間を利用して撮影されたシーンはとても濃密で尊いものに感じられた。あの「モナ・リザ」や「サモトラケのニケ像」などの超一流の芸術品が惜しげもなく露伴たちとともにスクリーンにおさまっているという贅沢。その存在感はまるで一人の演者であり、映画とはまた別のストーリーが語られてくるようだった。また、豪華で煌びやかな天井画が施されているアポロンギャラリーの荘厳さと露伴の佇まいの美しさは言葉では言い表せないほど神々しいものだった。

個人的にパリの最後のシーンがとても好きで、いつまでもこの光景を心に留めていたいと思った。しかし、この作品の奥深さはルーヴル美術館だけで完結しないところだろう。さまざまな難題をクリアし、あちこちにちりばめられていた伏線を回収していった露伴は、最終的に自身のルーツに触れることになる。私も思いがけず終盤に用意されていたシーンに胸がいっぱいになった。そして、締めには京香のあの底抜けに明るい声に安堵した。現在、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は渡辺監督、一生さん、飯豊さん、木村さん4人のオーディオコメンタリー(副音声)上映も実施されている。私も先日副音声を聴きながら鑑賞したのだが、本編の内容に沿って語られる撮影秘話はとても興味深くてずっと聴いていたいほど魅力的だった。最後に、一生さんによって飯豊さんのほんとの言い間違いが暴露され、「えっ、そこ、アドリブだったの?」と思わず吹き出しそうになった。やっぱり飯豊さんの存在は京香同様オアシスかもしれない。

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の向井理さんの千穐楽を観てきました。スタンディングオベーションで鳴り止まない拍手のなか、「これから1時間半ほど話すのでどうぞ座ってください」と茶目っ気たっぷりに言って涙の観客を一気に笑顔にした向井さんはさすがでした。また客席に観に来られていた演出家の方へ流暢な英語で感謝を伝えられている姿はとても誇らしかった。舞台はまだまだ続くので、私もまた観に行きたいと思っています。
 
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第74回「2023年4月・想いのカケラたち」
第73回「介護の厳しい現実を考える、松山ケンイチさん×長澤まさみさん主演『ロストケア』を鑑賞して」
第72回「歌に託した想いと“最愛”のGRAPEVINEリビジットツアー『in a lifetime present another sky』」
第71回「万事休すからのスペシャルギグ! 斉藤和義さん弾き語りツアー『十二月~2022』」
第70回「“いつか星空の下で” 石崎ひゅーい『ナイトミルクLIVE 10th Anniversary〜」
第69回「名実ともに兼ね備えた純白のアイドルホース・ソダシの底力」
第68回「「水墨画は心を映し出す。横浜流星さん主演『線は、僕を描く』を鑑賞して」
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第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第62回「10年分の想いを花束にして。石崎ひゅーい Tour 2022“ダイヤモンド”」
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第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
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第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”