2023年がはじまりました。さて、どんな1年になるのでしょうか。今年は斉藤和義さんの30周年のメモリアルイヤーであり、石崎ひゅーいさんも引き続き10周年(ひゅーいくん曰くデビュー日の前日まで10周年だそうです)ということもあり、活気あるにぎやかな1年になりそうです(そうそう、15周年を記念して7年半ぶりに復活したKARAの露出もとてもうれしい!)。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回は、昨年(12月20日)京都文化博物館別館ホールで行われた石崎ひゅーいさんのライブ「ナイトミルクLIVE 10th Anniversary Christmas Special」のようすをお届けしたいと思います。“ナイトミルク”とは、ひゅーいくんが毎回カバー曲を披露しているインターネットラジオで、ライブとして開催するのは4年ぶりとのこと。重要文化財に指定されている京都文化博物館別館は、東京駅(丸の内赤レンガ駅舎)や奈良ホテルの設計者としても知られている辰野金吾氏(と弟子の長野宇平治氏)設計による赤レンガ造の趣のある建物。会場の1階ホールは、吹き抜けの天井とシャンデリア、白い壁面と木製の回廊など美しい装飾のアールヌーボー建築で、かつては日本銀行京都支店だったのだそう。窓口にあたる木製のカウンターにはディティールに富んだ芸術的な柵が並び、当時の名残を伝えている。
拍手に迎えられながら、暗転したホールに笑顔でひゅーいくんとトオミヨウさん( pf. )が入ってくる。ステージに配された4本のフロアライトを一つひとつ灯していくさまはまるで神聖な儀式のよう。やさしい光のなかで、クリスマスライブの高揚感が高まっていく。集まった観客の顔をにこにこと見渡し「石崎ひゅーいです。よろしくお願いします」、人柄が瞬時にわかるやわらかい挨拶にほっこりする。オープニングは、オリジナル曲でライブタイトルでもある「ナイトミルク」。トオミさんのローズ・エレクトリック・ピアノは一音一音が丸みを帯びたジュエリーのような美しい音色で、ひゅーいくんのふんわりした歌声を際立たせるようにこの空間に溶け込んでいく。
続いて、藤井風さんの「旅路」のエモーショナルな歌詞を切なくも軽やかに表現すると、今度は心が洗われるような槇原敬之さんのバラード「素直」を歌いあげる。この曲を知ったのは、槇原さんの曲のアレンジやツアーサポートも務めるトオミさんからのおススメがきっかけだったのだそう。トオミさんに槇原さんとの出会いなどを質問しながら、いろいろな部分を引き出そうとするひゅーいくんがほほえましかった。(ひゅーいくんとの)初対面の印象を聞いたり、好きな色を聞いてみたり(笑)。トオミさんを慕っていることが十分伝わってきて、会場中は和やかなムードに包まれている。また、会場が銀行だったことに触れ(ひゅーいくんの)お母さまが銀行員だったという話も飛び出した。
選曲は(過去にラジオで歌った曲やSNSでのリクエストが中心だったようだが)、Vaundyの「踊り子」や米津玄師さんの「Lemon」など多彩なラインナップに魅了された。オリジナルとはまた違った味わいで、“石崎ひゅーい”の世界へと誘っていく。それぞれのアーティストが曲に込めたであろう想いも大切に胸に抱え、新たなストーリーを私たちに届けようとしているようにも見えた。これまでの空気が一瞬にして変わったのは、「罪と罰」(椎名林檎さん)だった。冒頭から魂を絞り出すような絶叫が耳をつんざく。張り詰めた空気のなか、誰もが微動だにせず聴き入っている。ひゅーいくんの緩急織り交ぜた表現力、歌唱力にうならされ鳥肌が立った1曲だった。
鳴り止まない拍手に照れるように「次のコーナーは、僕が日ごろから親しくしている人の曲を演ります」と(前回の東名阪ツアーにゲスト出演してくれた)尾崎世界観さん(クリープハイプ)の「ナイトオンザプラネット」、あいみょんの「裸の心」、崎山蒼志さんとの共作「告白」を披露。「ナイトオンザプラネット」ではメロディーにおさまらない尾崎さんらしい言葉遊びの部分をうまく歌い終えてにこっと笑った顔にきゅんとした。また、数多ある菅田将暉さんの曲からは「ラストシーン」のセルフカバーを。壮大な「ラストシーン」の景色がさらに深みを増し鮮やかに彩られていく。後半部分、マイクを通さず観客に投げかけるような、分かち合おうとするような生の歌声は圧巻だった。ずしんと胸を撃たれたような衝撃で、じわじわとカラダに広がってしみわたるひゅーい弾に震えた。これぞ“石崎ひゅーい”。やっぱりこれだよね。会場中がしびれた瞬間だった。
「ナイトミルク」という曲が生まれたきっかけは、眠れない夜が続いていたある日、友だちが差し出してくれたホットミルクだったのだそうだ。友だちのやさしさが詰まったあたたかいホットミルクのおかげで安心して眠ることができたと話してくれた。ラストの曲は、そんなホットミルクには“コレ”を混ぜるといいかもしれないとはにかみ「カカオ」で締めくくった。カカオがミルクに溶けていく、あったかいホットチョコレートをイメージしながら、“兎”や“新しい夜明け”というワードが散りばめられた「カカオ」の歌詞に、あらためてひゅーいくんの想いと選曲の見事さを感じて極上のクリスマスライブを堪能した。
一昨年、10周年イヤーを前に「(みんなを)いろいろなところに連れて行ってあげたいし、いろんな景色を見せてあげたい」と話していたひゅーいくん。その言葉通り、2022年は数々の10周年記念ライブ、フェスやイベント、ドラマ出演、さらにはSNSにも力を入れ、私たちを楽しませてくれた。2023年は元日からラジオのパーソナリティーに挑戦している。本当に計り知れないバイタリティーに驚かされてばかりだ。夢は“いつか星空の下で”ナイトミルクライブを開催することだと話してくれたが、有言実行のひゅーいくんなら、きっと近い将来実現してくれるような気がしてならない。
shino muramoto● 京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、東京から京都までの帰宅途中、架線異常で新幹線が4時間以上停まってしまうというアクシデントがありました。無事に到着してやれやれでしたが、いつ動き出すのかわからないなかで、結果的によかったと思ったのは飲み物やお菓子を持っていたこと。いつも数種類の飲料水を持っていて欲張りだと笑われていたけど、不思議なもので食料があるだけで不安も和らぐってことを実感。ほんと何が起こるかわからないですね。貴重な体験でした。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
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第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”