始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで過ごすように音楽の魅力についてまったりお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。

先日『YUKI concert tour “SOUNDS OF TWENTY” 2022 』ファイナル・日本武道館公演を大成功に収めソロデビュー20周年のお祝いに幕を下ろした…と思いきや、2023年2月にNEW ALBUM『パレードが続くなら』リリースのビッグサプライズを発表、まだまだリスナーを驚かせてくれるYUKIさん。今日はアリーナツアーで初披露され、初のピアノ弾き語りが大きな話題を呼んだ新曲『Oh!ベンガル・ガール』についてお話します。今回のキーワードは「インド」です。

目次
1.ベンガルとは
2.YUKI in India
3.歌詞が表現する愛しのベンガル
言葉では足りないから歌になる


 
 

*     *     *

 
 
画像1&サムネ用Bump & Grind
YUKI 2nd EP『Bump & Grind』2022.11.02 Release

 
 
 

1.ベンガルとは



YUKIさんらしいユニークな視点とユーモラスな言葉のチョイスが冴わたる、猫が主役の楽曲。猫視点で語られることで、想いの普遍性が際立ち、気付けば胸の隙間にそっと入り込まれるような、片想いしている人はどっぷり感情移入してしまうようなビタースウィートラブソングです。ではそもそもベンガルとは? 調べていきましょう。

ベンガル:インド北東部の地名
ベンガルトラ:インドに生息するトラの一種
ベンガル(ネコ):ネコの品種の1つ。別名サファリ・キャット
ベンガル(俳優):言わずとしれた名優

この曲では…猫ですね! 次はベンガルネコの特徴から曲の魅力のヒントを得ていきましょう。

●ベンガル猫の特徴
美しい皮毛を保有する絶滅危惧種、ベンガルヤマネコをルーツに持つ。野生的な外見と反して性格は大人しく温厚。懐きやすく、気品があり甘えん坊でよく鳴く。運動量豊富でたくさん刺激を求める。イエネコとしては珍しく濡れることを嫌がらず水遊びを好む。多くの個体が高い所に上りたがるそう(IDOG & ICAT,Wikipediaなど参照)

歌詞にもあります「屋根の上」がお似合いなキャッツだと判明しました。ではこれを踏まえて楽曲の魅力に迫るべく、ベンガルネコの生息地インドへと心の旅に出ましょう。

 
 
 

2.YUKI in India



ここからは今回のテーマ「インド」と楽曲の関係についてお話していきます。

●Beatles-like arrangement
この曲、サウンドに大変ベンガル味がございまして(←謎)というのもビートルズライクなアレンジ、特にポール・マッカートニー的ポップさが猫らしさを演出していると感じています。2つのポイントでご紹介しますね。

①温かみのあるバンドサウンド
スタッカートで刻まれるピアノや、歪んだギターの音色、淡々としているけど大きく体を揺らしたくなる推進力のあるドラムやベースのプレーは、ビートルズの音像に近いものを感じます。生身の人間が演奏する特有のテンポ感や温かみのあるアナログサウンドは楽曲に有機的な熱量を加えています。

また、遊び心と実験精神を盛り込んだ楽曲制作で知られるビートルズ。彼らがレコーディングで使用したことで有名な楽器・メロトロンやアナログシンセ、テープを逆再生したような音など、サイケデリックな効果音もスタンダードなバンド編成と組み合わせて随所に散りばめられています。マンドリンやキラキラしたシンセベルのフレーズがどこか異国情緒も漂わせ、この良い違和感が曲にフックを与え、癖になるんです。

②2人の距離を測る転調
この曲のベンガル味を最大限引き出しているのが転調です。

イントロのキーはB、
サビでA♭に転調(キーが3つ下がってるのにあの開放感!)
2番もそれを繰り返してアウトロはラスサビのA♭から半音上がってAで着地。
この転調が、君がいる場所、君との距離を表現しているのかなと感じています。

[B→A♭→B→A♭→B→A♭→A]こんな感じに転調しています。

 
 
[イメージ]
画像2
 
 

B:屋根の上にいる君、道から君を見上げる俺
A♭:道に飛び降りてきた君、同じ高さにいる俺
A:塀の上を歩く君、後ろをついていく俺

アウトロはまだ屋根の上で毛繕いするには至っていないけれど、お互いの距離が近づき塀辺りを一緒に歩いているような、この先が気になる結末。物理的、心理的距離を転調が醸し出していると想像すると猫らしさを一層感じます。

本当に転調がそんな効果をもたらすのか、ここで、転調した場合としない場合のベンガル味の違いを検証してみましょう。今回のために音源をレコーディング、ご用意しましたので聴き比べてみて下さい。※演奏は一部簡素化しています。どちらもAメロ途中からサビ終わりまでのパートです。

 
 
・転調なし

 
 
では次に原曲と同じ、サビ転調ありを聴いて下さい。
 
 
・転調あり

 
 

ね! どちらも心地よいコード進行なんですが、転調なしのサビ終わりのイントロは素直な猫といった印象です。一方、転調がある方はどうでしょうか、サビでガールが近くへすり寄ってきたかと思えばイントロに戻るやいなや、ヒョイヒョイ飛んでどこかへ行ってしまうような、何事もなかったように小憎たらしいすまし顔を浮かべていませんか(笑)? そして恋が始まる予感がします。これは転調でしか表せられない表現のひとつと言えるんじゃないでしょうか。転調って凄いよね!

今年公開された映画『Meeting The Beatles in India』で再注目を集めたビートルズとインドの関係性。この曲のアレンジがどの段階でどこまで決まっていたかは推測の域を越えられませんが、ベンガル、インドという歌詞のコンセプトからインド音楽や東洋思想にも影響を受けたビートルズらしさをテーマにアレンジしていったのか、アレンジから歌詞を連想させたのか、そんなところにも想いを馳せて聴いてみると、より曲の世界観を楽しめると思います。

 
 
 

3.歌詞が表現する愛しのベンガル



「愛のアカシック」
歌詞の〈触れたいのに触れられない 君の心に 残したい 愛のアカシック〉について。アカシックとはサンスクリット語の「アカーシャ」が語源で“虚空、全て”という意味。ここもインドと関連のある重要な言葉ですね。歌い方から「証」ともかかっている気もします。“愛の全てを君の心に残したい、それが俺の君への愛の証”という一途な想いが読み取れます。

「テリトリーを侵害させて」
縄張りを意味する「テリトリー」とパーソナルスペースを侵す「侵害する」は、一見ネガティブに聞こえる言葉。なのに距離が縮まることが愛おしく感じられる不思議。それは「他の猫には許していない範囲への侵入を俺だけには許して」という“心を開いて欲しい”願いだから。敢えて動物的なニュアンスで表現することで、ネガな言葉がポジにも変換される、YUKIさんはやはり凄い。凄すぎる。

「君のセンスで俺を呼んで」
“君のセンスが好き”そんな感覚ありませんか?(言われたら嬉しいですよね)
体でも心でもなく、物事の捉え方や思想、内面に惚れていることをこんなさりげなくカッコよく求愛している極上のキラーフレーズです。

「俺が君だけの運命さ」
この曲を愛おしく感じる理由はなんといってもサビのこの歌詞です。
ここにYUKIさんの作詞家としての凄さが詰まっています。
一番インパクトのある言葉を一番キャッチーな場所にというのは勿論、君が好きと伝えるとき、普通なら「君が俺だけの運命さ」が浮かぶと思うんです。が、それは2番で歌われていて、1番と3番は“君の運命は俺だけ、なぜなら俺は君のことを運命だと思っているから”と逆説的に君が好きだと表現する言い回し、最&高ですよね?

「またたび ふたたび I’m on my way」
更に、そのあとに続くここがまた凄いんです(ずっと凄いね)

・またたびは猫をリラックスさせる効果があると言われています
・ふたたび=againですね
・on my way=〜に行く途中
俺はどこへ向かう道の途中なのか。そう、君の愛へと向かっているんだね!

つまり意訳しますと、
“またたびのように癒してくれる君が俺を夢中にさせていて、何度も逃げられてしまってももう一度、君の心へと向かう旅の途中を進んでいるよ”

という、猫視点で意味も韻も成立させているハイパーニャンコキラーフレーズであることを盛りの猫くらい声を大にして申し上げたい!(“またたび ふたたび 君の心へ続く旅”で3つのたびってことね! 英語で韻踏む凄さね!)

補足:on my way=“お前へ”にも聴こえました(語感を大事にするYUKIさんゆえに)曲中、ガールのことを君と呼んでいますが、プロポーズのような強い想いがon my wayに込められていると仮定すると、少し強い自信に満ちた口調で“お前へと向かう旅の途中なんだぜ”って伝えたいって思ってると考えたら、もうトリプルミーニングじゃん! と愛しさに震え上がって早ひと月。

「太陽が世界を照らしても 君が泣くのならCloudy day」
2番では人知れず泣いている君の姿を見つけたり、君のいい部分だけじゃなく弱い部分、悲しみも曖昧にせず、見逃さない。そんな俺のやさしくて、一途で、健気な一面を感じさせる歌詞が並びます。そのトドメがここ。例え世界中のすべての人が幸せを感じても、君ひとりがそうでなければ僕も悲しいんだという、決してひとりも置き去りにしないYUKIさん節炸裂、ポップシンガーとしての証がここにあります。雨じゃなく曇りなのもいい。

 
 
 

言葉では足りないから歌になる



●クリシェが奏でる愛
最後にみんなきっとここに胸を奪われているであろうパートの魅力をご紹介します。

君のセンスで俺を呼んで 2人毛繕い 屋根の上
太陽が世界を照らしても 君が泣くのなら Cloudy day
触れたいのに触れられない 君の心に

ここがキュンキュンする理由のひとつに歌詞とコード進行のリンクがあります。
メロディーは同じ動きを繰り返しますが、クリシェという半音ずつ変化する微妙な和音の響きが、切ない気持ちで眺める夕陽が沈んでいく時のような、想いを残したまま時が流れる切なさを連れてきます。

【Fm Fm/E Fm/D# Dm7-5】
または
【Fm Eaug A♭/D# Dm7-5】

F E D# Dとルートが半音ずつ下降していく動きが恋に落ちていく様と重なり、

「愛しのベンガル・ガール」
【B♭m Cm D♭ E♭ A♭】

ここに至るまでの流れがあってこそですが、コードの上昇と愛おしさが高まる様がリンクしドライブしていくエモーショナルポイントです。
メロディー、アレンジ、歌詞、様々な要素が組み合わさる音楽だからこそ、言葉を超えて、言葉では足りない想いを深く一瞬で心に届けてくれるんだと、改めて超絶感動しました。

 
 
*     *     *


キーワード「インド」をテーマに楽曲の魅力をお話して来ましたが、いかがでしたでしょうか?今日もこの曲のようなラブストーリーが世界のどこかで育まれていると想像すると、なんだか自分の居場所に心が戻ってきた時、温かい希望が湧く感覚を抱きました。この曲の中の俺、ベンガル・ガールとうまくいくといいなぁ。

そろそろカフェを出ましょうか。最後までお読み頂きありがとうございます。2023年もそれぞれに素敵な音楽の旅がありますように。良いお年をお迎えください!

 
 
 
 

YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2


【Vol.11 遠藤雅之さん】

1年間かけて様々な方とひとつの楽曲を育てていく壮大企画。今回は現在、日本一周しながら撮影を敢行中の写真・映像カメラマン・遠藤雅之さんからメッセージが届きました。遠藤さんにはコーラスを歌って頂きました。ありがとうございます!
 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
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