穏やかな気候に新緑がまぶしい5月。個人的にいちばん好きな時期がやってきました。ゴールデンウィーク明けはカラダがなかなか仕事モードにならないのが、唯一の悩みでしょうか。そういえば、通勤時にたまにすれ違う男子が(学生なのか社会人なのかわからないけれど)、きっと眠いんだろうな、目が半分閉じたような状態で歩いていて。図面ケースやら大量の荷物を抱えていて、思わず心のなかで「がんばれ!」って声をかけてしまう。しかもその人、どことなく石崎ひゅーいさんに似ているんですよ。だから、よけいに気になってしまうのかもしれません(笑)。さて、今回は、ちょうど話題が出たところで、今年デビュー10周年YEARという節目の年を迎えている石崎ひゅーいさんの気概に満ちた「Tour 2022“ダイヤモンド”」(4月13日大阪BIGCAT、4月20日岡山YEBISU YA PRO、4月23日神戸チキンジョージ)のようすをレポートします。
大きな拍手に迎えられて、ゆっくりとステージを踏みしめるように登場したひゅーいくん。バンドメンバーがオープニングの「ジャンプ」を鳴らしはじめるとステージは一気に豊かな色彩に包まれた。2019年にエビ中(私立恵比寿中学)に提供した楽曲で、制作中からひゅーいくん自身も新しく生まれ変わるためのテーマ曲のようだと、自分で歌うことを意識していた意欲作だ。〈おめでとうって言いながら はしゃぎながら ジャンプしよう〉という歌詞は、新しいトビラを開けると同時に、まさに10周年YEARにふさわしい楽曲だと思った。続く「パラサイト」では、ハンドマイクでステージを右に左にと移動し、挑発するように観客の顔をのぞきこむ。その近さは、マスクがなかったら(声出しが禁止されていなかったら)悲鳴が上がっていたかもしれない、そんな失神必至のシーンだった。
開始早々フロア中のココロを鷲掴みにして、アコースティックギターを抱えるひゅーいくん。ハンドクラップからの「トラガリ」「あなたはどこにいるの」はバンドならではの疾走感でステージとフロアが一体になっての盛り上がりを見せた。今回、全国10か所をまわるツアーは久しぶりに訪れる場所もあり、ファンはもちろん、ひゅーいくん自身もきっと待ち焦がれていたのではないかと思う。自由に行き来できなかった時期をこえて、やっとたどり着いた約束の場所。お互いの気持ちがぎゅっと交わったような瞬間が何度もあった。ひゅーいくんは、観客の顔を一人ひとり確かめるようにキラキラとした瞳で見つめながら「今日のライブを余すことなく楽しんでください」と笑顔を見せた。
今回のツアーは、バンドメンバーが公演ごとに替わるという試みも見どころのひとつだった。キラキラした浮遊感漂うチームキモチー(ネーミングはひゅーいくん)は、トオミヨウさん(Key.)、原治武さん(Dr.)、西田修大さん(Gt.)、越智俊介さん(Ba.越智さんは10公演すべてに参加)、ロック色強めのチームサンキューは清野雄翔さん(Key.)、河村吉宏さん(Dr.)、真壁陽平さん(Gt.)。音楽シーンで今最もアツいミュージシャンが集結し、ひゅーいくんの世界に華を添えた。演奏する人が替わることによって生み出されるパッションは、まさにその日その瞬間にしか味わうことのできない奇跡のようなもので、ひゅーいくん自身もバンドによって歌い方が変わったのだそう。運よくそれぞれの公演を観ることができ、その違いに唸らされた。
チームキモチーでは、デビュー初期の壮大なバラード「エンドロール」で力強くもエモーショナル歌声を聴かせ、「スノーマン」ではトオミさんの透明感のあるピアノとひゅーいくんのハーモニーがオンリーワンのきらめきを放ち、ピアノにそっと重ねていく西田さんのギターの音色がキラキラと光るダイヤモンドダストのように幻想的だった。チームサンキューの「ジュノ」は、アルバムにも参加していた真壁さんの神業でより一層パンクロック風に、「シーベルト」では、グルーヴィーな演奏に応えるようにカラダ中でハーモニカを吹き鳴らし、モニターに足をかけて歌う情熱的なひゅーいくんがいた。思いもかけない化学反応によって、新たな一面が引き出されていくような感じだろうか。ひゅーいくんはずっと嬉しそうに笑っていて、全員が全力で楽しんでいる贅沢で幸せなセッションを堪能した。
『ダイヤモンド』は、10周年というタイミングで、いつも支えてくれるファンへの贈り物という意味を込めて作られたアルバムであり、ダイヤモンドの結晶たちを直接届けるためのツアーだった。『ダイヤモンド』の曲に加え、聴きたかった曲、バンドで映える曲を織り交ぜたセットリストに、みんな(私も含め)、ひゅーいくんの想いを受け取りながらのライブだったに違いない。そんななか「アヤメ」のあと、もう一つ、届けたいものがあると言って「受け取ってください」と歌い出したのは、新曲「花束」(ドラマ『警視庁捜査一課長』主題歌、5月19日発売)だった。シンプルなメロディーと丁寧に想いが綴られた歌詞は、思いがけず差し出された花束のよう。なんて素敵なサプライズなんだろう。ひゅーいくん自身も感情が込み上げるようなシーンもあり、まっすぐに飾らずに歌を届けてくれる姿を目の当たりにしてココロの震えが止まらなかった。私たちの「ありがとう」の想いを込めた拍手に微笑みながら、照れ隠しのように「まだまだ、行けますか?」と煽るのもひゅーいくんらしい。「星をつかまえて」では手を上げて応える観客をカラフルでポップな世界へと誘い、「さよならエレジー」では躍動するバンドメンバーとアイコンタクトをとりながらアコギをかき鳴らし、エネルギッシュにフロアを盛り上げた。
そして、今日、ここに集まった一人ひとりを見渡しながらデビュー10年の感謝を伝える。大きな拍手に頭を下げ、「とは言いながら」と、(この10年は)決していいことばかりではなかったと振り返った。「正直ココロが折れそうなときもあったし、あきらめちゃおうかなと思ったことも多々ありました」と顔を歪ませた。うつむき加減でマイクスタンドに寄りかかりながら言葉を紡ごうとする。その言葉と言葉の余白の部分に揺れ動くココロのうちが見えるような気がして、私たちは祈るように見守っていた。一呼吸置いて「そんな自分自身との決別の曲であり、新しい自分との出会いの曲です」と言うと、ひゅーいくんは歌い出した。それは、静かに鳴らされるメロディーが散ってゆく桜の花びらを思わせる、春の別れを歌った曲。私の大好きなこの曲が満身創痍で生み出されていたなんて…知らなかった。でも、まっすぐ前を向いて、新しい自分との出会いの曲だと表現してくれたことが救いだった。ココロとカラダを撃ち抜かれながら聴いた「ピリオド」をきっとこの先も忘れないだろう。苦悩や涙の日々を、自らの力ですべて浄化するような渾身の「ピリオド」に拍手はしばらく鳴り止まなかった。
バンドメンバーを見送ったひゅーいくんは、最後にトオミさん(清野さん)と二人、「スワンソング」でライブを締めくくった。トオミさんのことをさりげなく「命の恩人」だと紹介したひゅーいくん。それを受けて穏やかに微笑んでいたトオミさん。お二人だけにしかわからない、これまでの長くて濃い年月に想いを馳せる。ひゅーいくんははにかみながら「これからも、ついてきてください」と澄んだ瞳で言った。その言葉が、ふんわりとみんなのココロを包み込んだ。これが、“石崎ひゅーい”という人なんだろう。ふわっと人の懐に入りこむ茶目っ気と可愛さ。そして、言葉の持つチカラを信じている人。そういえば、ひゅーいくんはSNSにこんな言葉を記していた。「もうみんなどんな顔してるかわかるようになってきたから マスクあってもなくても関係ねーわ。最高」と。ひゅーいくんには私たちの泣き顔も笑顔も見えていたんだろう。芯の部分は骨っぽくて、魅力のかたまりのような人だ。だからこそ、誰からも愛されるのだろう。10周年YEARはまだまだ始まったばかり。デビュー日(7月25日)には、10周年記念ライブが開催されることも発表された。サプライズ好きのひゅーいくんから、まだまだ目が離せない。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。ゴールデンウィークはずっと気になっていた大阪のOTODAMA’22~音泉魂~1日目に初参戦。フジファブリック、GRAPEVINE、The Birthday、NUMBER GIRL…。山内さんのMCが胸にぐっと来て涙腺が崩壊した「若者のすべて」。バインとバースディは最新アルバム中心の攻めたセトリがらしくて、田渕さんのギターには終始釘づけ。笑顔も素敵だったな。フェス飯も堪能し魅惑的なフェスでした。
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第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”