今年もあと2か月半になり、過ごしやすい季節になりました。1年のなかで秋はとても好きな季節だけど、なんだか名残惜しい…。というのも、春・夏にかけて参加していたいくつものツアーが終盤を迎えていることも理由のひとつ。きらめきの瞬間をぐっと胸に抱えて、終わりは始まりだと心に刻む毎日です。今回は、大阪城音楽堂(9月24日)で追加公演の最終を迎えたGRAPEVINEのライブの模様をお届けしたいと思います。
この日は、1週間前の大雨が嘘のような穏やかな週末。やはり、彼らは晴れバンドであり、野外が似合う。両手を上げて、悠々と登場する田中さん(Vo.&Gt.田中和将)。少し丈が長めの真っ白いシャツを風になびかせてオーディエンスをニコニコと眺めながら、亀井さん(Dr.亀井亨)のカウントを皮切りにリズムをとる。オープニングは、アルバム『新しい果実』から、スリリングな気配が漂う「阿」だ。リードする金戸さん(Ba.金戸覚)のうねるような低音に、勲さん(key.高野勲)の奏でる機械的なメロディーが絡み、アニキ(Gt.西川弘剛)の異彩を放つフレーズが次々と投下されていく。躍動感のある熱のこもったプレイ、そして田中さんのシャウトにみんなのボルテージがどんどん上がっていく。作曲に5人の名前がクレジットされているこの曲は、これこそがGRAPEVINEという、名刺代わりの1曲なのだろう。この日を心待ちにしていたのは、私たちだけでなくステージ上の彼らも同じだったのかもしれない。続く「冥王星」では、田中さんと金戸さんが向き合って気持ちよさそうにセッションをするシーンにオーディエンスは沸き、「吹曝しのシェヴィ」ではアニキの味わい深いスライドギターが吹き抜ける風とともに停滞していた時間を流してくれるようだった。
今回のツアーの核である『新しい果実』は、実に多彩でこの5人でしか鳴らせない、実の詰まった豊かな生命力を感じる傑作だと思う。いつだって、彼らはアイデアの宝庫でいとも簡単に私たちの想像を超えてくる。田中さんが手がける歌詞は今回も秀逸で、「さみだれ」「最期にして至上の時」は特に短編映画のように美しい情景が目に浮かぶようだった。現代社会を俯瞰しながら、時には独自の視点で斬り込んでいく。ユーモアと文学的なエッセンス、そして韻を巧みに散りばめながら。聴き手は、田中さんのセンスにうなりつつ、キーワードを手がかりにして歌詞に潜んでいる壮大な世界に気がついたり、田中さんの関心を垣間見ることができたり。バインの楽曲は、謎解きのような楽しみもあり、メロディーの美しさとともに聴けば聴くほど深みにハマるのだ。
この大阪を含め、北海道・東京の三都市で開催された追加公演。かつて、ベスト盤のような選曲はしないと言っていた彼らだったが、今回は「覚醒」「すべてのありふれた光」など、デビューからの24年を鮮やかに彩ってきた、ライブ映えする楽曲が多くラインナップされていた。伸びやかで深みのある田中さんの声と重厚なセッションで魅せるエモーショナルな「CORE」、きらめきと一体感を目の当たりにした「リヴァイアサン」、「KOL(キックアウト ラヴァー)」では、いつもクールなアニキが両手を広げてステージ前方へ歩み寄り、ギターソロをアピールするレアなシーンも! 本編のラストを飾ったのは、美しいメロディーと亀井さんのドラミングが印象的な「Gifted」だった。サブスク主流のご時世など知ったことではないと、約1分のイントロを含めたっぷりとオーディエンスを魅了して、さりげなくステージを去っていく彼らの後ろ姿に、あらためてGRAPEVINEのすごさを目の当たりにした。
夏の終わりとともに、6月からスタートしたツアーも今日で終わる。過ぎゆく夏の、まだ少し熱を帯びた空気とひんやりした秋の空気を感じながら野外で観るバインは、最高にドラマティックだった。「今年はもうお前らに会うことはないぜ!」と言いつつも、何度も「名残惜しい」と口にした田中さん。「光について」でステージの後ろに映し出されたシルエットも、<きみの味方なら ここで待ってるよ>と大きく広げた両手も、すべて心に留めていたい。すっかり暗くなった空に飛び立っていく飛行機のテールランプが鮮やかだった。アンコールのラスト「Arma」の歌詞を噛みしめながら、来年こそは一緒に歌えることを心から願おう。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、京都・磔磔で石崎ひゅーいくんのアコースティックライブを観ました。精悍でかっこよくて、全身全霊、まっすぐに歌を届けようとする姿を目の当たりにして、今も心が震えて止みません。子犬のような可愛さとタフな心意気。誰からも愛される理由がわかる、あたたかいライブでした。山本健太さんのキーボードも素敵でした。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
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第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”