始まりましたGAL Radio。絶賛花粉症大爆発中です。そんな花粉も舞い踊る春に届いた、YUKIさんのNEW SINGLEより「Baby, it’s you」について今回はお話したいと思います。
先日配信しましたツイキャスラジオでも少し触れましたが、時間の都合上割愛した話まで盛り沢山でお届け致します! 歌詞や作品の捉え方はあくまでも個人的解釈ですので、聴く方それぞれの数 だけ正解だということを踏まえた上でお楽しみ下さい。まずは全YUKIさんファン熱狂のMVをどうぞ!
今のYUKIさんが凝縮されたメッセージラブソング
全身を大きく揺らすビートに、思わず口ずさみたくなるフォーキーなメロディーを乗せた、アコースティックギターが印象的なナンバー。爽やかな春風がカラッとした心地良さを運び、重力のように重たく響くベースと一体になり、地球と踊っているような壮大なエネルギーを感じます。みんなが難しい顔をしている時、YUKIさんの前向きさ、しなやかさは凄まじい威力を発揮します。大切な人を思うことこそ自分への愛でもあるとYUKIさんが歌う行為そのものがもはや奇跡。この曲のハイライトのひとつ「153cmのリアルファンタジー」部分に代表されるコーラスワークはまさにYUKIさん印! 独特な口の開き方から産み出される、倍音豊かな母音や、絶妙な声の掠れ方に心をギュッと掴まれっぱなしです。
1.歌詞をリンクさせたアレンジの遊び心
初めに聴いてワクワクしたのは、さりげなく鳴っている2つのフレーズでした。曲のストーリーを彩る効果と、音楽が大切なものであると示しているような、遊び心溢れる隠し味。今回の記事の為にレコーディングした音源と合わせてご紹介します。(超短いフレーズですが)
①「未開の地に 指先で鳴らすスタインウェイ」
スタインウェイは世界水準の高級ピアノメーカー。可愛い高音がポロンと奏でられています。
②「予想もしないフレーズ弾いてよ スティーヴィー・レイヴォーン」
スティーヴィー・レイヴォーンはアメリカのブルースギタリスト。David Bowie『Let’s Dance』や、Stevie Ray Vaughan & Double Trouble 『Scuttle Buttin’(スカットル・バッティン)』などが有名で、このフレーズもそのオマージュと思われます。前段で歌われる「急なトラブル」とレイヴォーンとダブルトラブルをかけたと想像すると面白いですよね!
過去にも「メランコリニスタ」2番サビの歌詞〈退屈けとばせベースのライン ダ・ダ・ダ〉に合わせてベースが跳ねる、他のサビと違うアレンジのアイディアなどもテンション上がりますよね。YUKIさんが音と戯れている大好物ポイントのご紹介でございました。
2.シンプルな言葉で普遍的な美しさを放つ歌詞
「ミステイク承知の助 猫じゃらし」
シンプルにきゃわいいっすよね。前文に来る「風に乗った旋律 千切れてしまわぬように 一層 流れて」を受け、猫じゃらしのようにふわふわと揺れている様。失敗も恐れず揺れながら生きよ うと、肩の力を抜いてくれるユーモラスな一言。
「学歴なんて持ってない 修正ペン出して書き直した 153cmのリアルファンタジー」
学歴を否定している訳ではなく、履歴書に書ける肩書きがある素晴らしさとも別の、自分の身一つ、生きていることだけで物凄い価値のある素敵なことだ、と唱えている一節。本当に大切なこ とはそうない。それを「本当さ」と歌ってくれるその説得力たるや。YUKIさんの本当さは本当です。
「私らしくいられるのは 君があるがままだからさ」
“自分は変えられる、他人は変えられない”とよく言われますが、僕はそうは思わなくて。自分を変えてくれるのは大切な人からの影響を知らず知らず受けている時だったりします。人は変わろうと思っている時より、無意識に変わっていくものではないかと。君が素直でいてくれることで鏡のように共鳴し、心の存在を感じられる。だから君が自分にとって変化をもたらしてくれる存在であり、他人によって変えられていることが成り立つと言えます。それが自分だけではなく、君にとってもそうなのだとしたら、こんなに素敵なことはないですよね。
「誰かが漕いだブランコ 揺れている ああ 今なら間に合う 引き返すのも妙案
哀しみに深く取り憑かれ こじ開けた箱の中 残されたのは 希望だけ」
揺れるブランコは誰かがいた形跡、会えない人を連想させます。誰の人生にも哀しみは存在していて、どこまでも付き纏うことも。箱を開ける行為は何が起こるのか想像し、行動する隠喩で、それこそが希望なんだと。喜びだけ肯定するただ明るい歌ではなく、哀しみ、切なさも内包しているからこそ、素直に生きようとする心の賛歌としてとてつもなく信頼のおけるものに。寄り添って頂きありがとうございます。(突然の感謝)
「愛が咲くのは やわらかい みぞおちあたり 目線は 遠くへ 力はいらない」
皆さん、みぞおちあたり、腹筋、体幹を意識して目線を遠くに、力を抜いてみて下さい。自然と顔を上げて胸を張る姿勢で深呼吸する状態になりませんか? そうなんです、愛が咲く場所はもう皆さんお分かりですね? 自信を持って美しい姿勢で見つめる先、素直な私と君がいる今なんです!! 自由へと開放されていく心のグラデーションの描き方が抜群過ぎます。YUKIさんが本気で願いを込めたであろうワンフレーズ。
3.タイトルに込められた、「今日の月が綺麗」な理由
「今日の月が綺麗なのは そう 君が笑っているからさ」
このフレーズには私にとって、君にとっての、2つの意味が込められていると思っています。
私:君が笑っているから私も嬉しくなって月が綺麗に見える、月の美しさに気付ける
君:君が笑顔でいる、その心で君が見る月は綺麗だよ
合わせてタイトルも考察します。アイラブユーの最も美しい意訳のひとつ、夏目漱石の“月が綺麗ですね”を引用すると「Baby, it’s you」は「大切なのは、君だよ」と訳せます。「私にとって大切なのは君」「あなたにとって大切なのは君」ダブルミーニングです。
これらを導き出してくれるのが、最初にお届けしたMVです。過去のMVは非日常な風景や設定が多い印象ですが、今作は公園や遊園地といった、日常の延長線上の楽しさを求め、夢を描く場所が舞台です(遊園地貸し切りは非日常でございますが、そこはご愛嬌)YUKIさん以外出てきません。彼女の精神世界なのか、“私と君が笑うことから世界をつくろう”というメッセージにも受け取れます。メリーゴーランドに乗り夕陽を見つめるカットは、YUKIさんキャリア史上最も美しい表情です。(※個人調べ)
楽曲ではこれだけ月を象徴として描いているにも関わらず、クライマックスに指差す夜空は敢えて見せない終わり方がニクい! ラストのカットで月が浮かぶ空へと近づく観覧車に乗っているのは、私と君が同じように綺麗だと思う未来へ向かうイメージのメタファーでしょうか。
今回の記事のタイトルの理由は、MV冒頭、観覧車に乗るYUKIさんが放つ一言〈笑ってるからさ〉にあります。「どんなことがあろうと私は笑っているよ、笑顔を出発地点にして(歌詞の冒頭が〈君のスマイル〉で始まっていることで、この曲から、音楽から愛を咲かせていこうという仕掛けも凄い!)正しさではなく楽しい方、心が求める方へと向かおう。そこから音楽や愛が生まれるんだ」そんな風に聴いています。
4月リリースのニューアルバム、5月からのツアーでもそんな愛が咲くような楽曲や瞬間と出会えるでしょうか。この連載では3ヶ月連続でYUKIさん特集をお届けする予定です。ハイパー楽しみなのは、そう、YUKIさんが笑っているからさ!
待望(?)の復活!! オススメしたい!のコーナー
今聴いて頂きたい3曲をご紹介する、誰もが完全に忘れていたコーナー。今回は春にぴったりな曲を選びました。
1.ホタルライトヒルズバンド「ダンデライオンの夜に」
先日、渋谷ラママで10周年記念ライブを敢行したホタバン。彼らの演奏する姿は凛としていて、 真っ直ぐに伸びる見えない光がステージから放たれていました。人生には何度か訪れる宝物のような瞬間があって、それは哀しみや別れから授かることも。タンポポの綿毛や花びらのような優しい色が風に乗って空を舞う瞬間、まるで蛍のような輝きを放ってぼんやり照らしてくれる。バンドのエモーショナルが詰まった名曲です。
2.andymori「ベンガルトラとウイスキー」
ホタバン10周年ライブの対バン相手として、小山田壮平君が駆けつけ1曲目に鳴らされました。10年ほど前、くるり主催のフェス「京都音楽博覧会」で彼らを初めて観た時の、何とも言えない疾走感と細胞が疼くような衝撃が蘇り、学生時代聴いていた小山田君の歌を、10年後にまた聴けたことがとても嬉しく、繋がっているなぁと感じた夜でした。くるりのトランペット・ファンファンさんが脱退というニュースもあり、彼女が帯同されていたツアー映像からどうぞ。
3.ケツメイシ「さくら」
個人的さくらソングNo.1。偶然にも今年新しいMVが制作されていました。基本同じコード進行でループしていく中でヴァース、ブリッジ、コーラスとメロディが変わっていくそのどれもが美しく、少しずつ変化しながら繰り返す日常と訪れる季節を思わせます。MVオリジナル版のヒロイン・鈴木えみさんが超絶美しいのでそちらも機会があれば是非ご覧下さい。
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始。2枚のシングル、1枚アルバムをリリース。2016年活動休止。演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けた意欲作。アルバム『RADIO WAVES』、シングル『ひまわり』共にApple Music、Spotifyなどで配信中。
お仕事依頼はTwitterからお待ちしております。Twitter:@zazamino
イラスト:matsun
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」
第32回「TRICERATOPS トリビュート盤レビュー&ライブレポート!」
第33回「写真家・薮田修身 展覧会『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』レポート」
第34回「新企画!『YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう』始動!!」