でんぱ組.incが好きだ。
彼女たちのことは以前から知っていたけれど、この夏に渋谷で行われた、
あるイベントでたまたまライヴを観て完全に心を掴まれた。
可愛いとか、歌や踊りが上手いとかっていうよりも、
時折ステージで何が行われているのかわからない意味不明の面白さに衝撃を受けて、
お口ポカーンとなった。
何だか他のアイドル・グループにはない個々のメンバーから沸き起こるエネルギーが
カオティックにステージで絡み合っている。
その後、その衝撃をツイッターでつぶやいたら、ご関係者の方が音源を送って下さった。
「キラキラチューン/Sabotage」と「でんぱれーどJAPAN/強い気持ち・強い愛」の2枚のシングル。
私はそれを夢中になって繰り返し聴いた。おかしい。
この春からかなりの数のアイドル・グループの音源を聴いてきたが、
繰り返し聴きたくなるようなものは正直なかった。
そのグループに好感や興味を持っていたとしても、大ヒット曲でも、何度も聴こうとは思わない。
何故か。面白くないし、だんだん疲れてくるのだ。
だけどでんぱ組.incはライヴが面白いというだけでなく、
CDも何度も聴いてしまうほどの中毒性がある。
もちろん、楽曲そのものやアレンジが素晴らしいというのはあるはずだけど、それだけじゃない気がした。
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9月16日、恵比寿リキッドルームで行われたワンマンライヴ「愛をでんぱに」に行ってきた。
この夏、日本中を飛び回って色んなイベントやフェスに参加してきた
6人の絆と汗の結晶みたいなパフォーマンスは序盤から超満員のオーディエンスを熱狂させた。
そして私は途中で気が付いたのである。
私がでんぱ組.incを好きなのは、「今、誰が歌っているか」がはっきりとわかるからなのだ。
アイドル・グループの多くは、例えばAKB48にしろPerfumeにしろ、
声や歌い方が均一化されていて(統制が取れているともいう)、
誰がどこを歌っているのかよくわからない、もしくは、
今誰が歌っているのかはわかるけどそんなに声に特徴がない場合が多い。
そりゃあ、ファンならば「俺は誰々ちゃんの声なら必ず聞き分けることが出来る!」って言うだろうけど、
でんぱ組.incはそういうレベルじゃないのだ。
6人が6人とも、自分が歌いたい歌い方と自分の出したい声で自由に歌っている。
しかも、それぞれびっくりするほどキャラが違う。
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歌唱力がズバ抜けているのが、リーダーの相沢梨紗と古川未鈴で、
水樹奈々に代表されるような声優系歌手のエモーショナル歌唱を聴かせてくれる。
一方、雰囲気系なのが、
ふわふわした萌えキャラ声の夢眠ねむと、ちょっとハスキーでふにゃっとした声が愛らしい最上もが。
この2人が楽曲にキュートなニュアンスを加える。
そして、どんな時も子供のような無邪気さと勢いにまかせた歌声を貫くのが藤咲彩音と成瀬瑛美。
他のメンバーの歌の上手さや雰囲気を(いい意味で)台無しにするほどの破壊力に満ちており
(これを私の中では“どっちらけ系”と呼んでいる)、
決して上手くはないが心から楽しい気持ちにさせてくれる声で歌ってくれる。
歌唱力系、雰囲気系、どっちらけ系、この2人ずつのバランスの良いフォーメーションで
曲が目まぐるしく進んで行く。だから面白いし、繰り返し聴いてしまうのだ。
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そしてもうひとつ。
最初にイベントでライヴを観た時に、心に感じていたこと。
6人が「ここが全て」という感じでステージの上でキラキラしていたこと。
そこに何か切実ささえあるようで心にひっかかったし、すごく惹かれた。
今のアイドル・グループの中にいる子たちには、
アイドルとしての活動を踏まえたもっと先に別の夢を持っている子だって少なくないから。
「アイドルとして終わるつもりはない。ほんとは女優になりたい」なんて気持ち、もちろん、あったっていいんだけれど。
なんか、でんぱ組のメンバーって「ここにいるだけで嬉しい、ありがたい」、
そんな気持ちが客席にまで飛んでくるみたいだった。
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リキッドルームのワンマン。
終盤のMCで感極まって泣くメンバー。
「学校にもあんまり行ってなかった、生きる場所がなかった」
「でも6人で頑張ってたら夢みたいな奇跡みたいなことが起こった」
って、声を詰まらせながら口々に語る。
彼女たちのプロフィールには、それぞれの「ヲタクジャンル」というのが書かれている。
ネットゲーム、アニメ、声優、漫画、コスプレ……
それぞれにヲタク的世界を持っていた彼女たちが、
こうしてステージの上でたくさんのサイリウムの光に照らされながら、
熱狂的なファンの前で歌って踊っている。
その喜びは今、かけがえのないものとして彼女たちの人生そのものを明るく照らしているのだろう。
「この6人で日本武道館を目指したいです」と更なる夢を語る。
まずはその足がかりとして来年1月にZepp Tokyoでのワンマンライヴが決定した。
この日、披露された新曲「W.W.D(ワールドワイドでんぱ)」は、
彼女たちのリアルな過去と、今、ステージに立つ理由と原動力が明らかになるような、そんな印象があった。
ここが生きる場所なんだ――
生半可じゃないその凄まじいエネルギーで彼女たちは今を鮮やかに飛び跳ねる。
(上野三樹)