「旅の出発点」
この企画のお話を頂いてから、何日もぼんやりと考える日が続いていた。
色々な感情が押し寄せ、モヤモヤが付き纏い、整理出来ず、書いては消しを繰り返す。
「誰に向けて書けばいいラブレターなのか」と。
勿論ライブハウスに向けたものなんだけど、なんかこう説明出来ないものが心にあって。
行く予定だったCHARA+YUKIさん、赤い公園さん、和田唱さん、ゆずさんと大好きなミュージシャンたちのライブはことごとく延期、中止を余儀なくされていた。命より大切なものはないだろうし、中止自体は受け入れざるを得ない。一番悔しいのは本人であることは僕だってよく知っている。
でも音楽だけじゃなく、社会のありとあらゆる物の存在が一部でどこか軽視されているような気がしていた。全てウィルスによるものなのか? 人によるものなのか? 今に始まったことなのか? 様々な膿のような禍々しい部分が炙り出されていく日々は、先延ばしにして見て見ぬ振りをしていた問題を自分も含め「大切なことは何か」を突きつけられているような、そんな気持ちだった。
だからひとまず、世間や社会を一旦忘れて僕のライブハウスとのエピソードを振り返り書くことにした。それが迷いを抱えながらそれでも今日まで音楽を好きでいられた自分にもヒントをくれると思ったから。希望がそれに飲み込まれてしまわぬよう。これからのための備忘録として。
人生初ライブは親父に連れて行ってもらった日本武道館のエルトン・ジョン。友達と一緒に目の当たりにした横浜アリーナでのミスチルのライブにも衝撃を受けたし、母と行った東京ドームのポール・マッカートニーを観た時には既に音楽の魔法にかけられていた。
それでも大きな会場とは違うスタンディング特有の、もみくちゃになりながら歪な熱量の中で音にまみれる瞬間の「肉体を超えて音になる」感覚は細胞ひとつひとつが燃えるようだったと今でも鮮明に思い出せる。
人生初のライブハウスは、遡ること16年前、2004年、秋、東京。お台場にあるZepp Tokyo、YUKIさんの「Sweet Home Rock’n Roll Tour」最終日。
代表曲「JOY」発表前で音源とは違うアレンジで披露されたり、名曲「コミュニケーション」を楽曲提供されたスネオヘアーさんがサプライズでゲスト出演したりと見どころ満載。バンド解散後、ソロ大ブレイク前夜なタイミングのライブは「何やら今からYUKIさんは凄いことになっていくんじゃないか」と予感させる大きなうねりのようなエネルギーに満ちていた。蔦谷好位置さんが制作されたライブのオープニングSEが流れた瞬間から終演までの2時間それを感じていた。
▼スーパーエキセントリックなセットリストはこちら(2004年10月4日参照)
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/YUKI/journal/main-200410.html
初めてそのステージに立ったのは2011年、冬、原宿。明治通り沿いにあったASTRO HALL。(2017年12月31日に閉店)
▼シブヤ経済新聞『原宿のライブホール「アストロホール」閉店へ 17年の歴史に幕』
https://www.shibukei.com/headline/12812/
ギタリスト・TAKUYAさん(ex.JUDY AND MARY,ROBOTS)の公演が12月上旬に開催されることを知り、会場のTwitterをフォローしたところ僕のプロフィールを見たスタッフ矢崎さんに「新人の対バンイベントに出ませんか?」と声をかけて頂いた。当時活動していたバンド、goodsleepsのメンバーや友人以外で人生で初めて僕の音楽をいいと言ってくれた大人たちだった。会場に貼り出されていたスケジュール。共演したわけでもないのに1枚のポスターに憧れの人と一緒に掲載されているだけで無性に誇らしかった。初めてのライブを担当して下さったPAさんと何年後かに別の会場で再会した時、そのことを覚えてくれていたのもとても印象に残っている。
スタッフさんからは様々なアドバイスを頂いた。「iPhone(当時3G!)のアプリを使った即興演奏がユニークだね」とか「ビッグマフ踏みっぱなしは面白いね」とか。曲数が少なかった僕らに「毎回同じ曲ばかりだからもっと新曲をやった方がいい」と言われたこともあった。何クソ! と思って書き下ろした新曲ばかりで敢行したライブはそれまでで1番お客さんの評判もよく大成功だった。(この時の曲たちがアルバム『SIGNAL』にも多数収録されている)海外も含め多くのミュージシャンと仕事をされている方が駆け出しの何の知識も経験もない自分たちにもフラットに接してくれたことはとてもありがたかった。
あそこから僕の音楽の旅は始まったと思っている。
ここには書けないような自分だけの宝物になった瞬間とも沢山出逢えた。
そこには演者だけでなく多くの携わる人がいる。
その方々がいなければ僕らは音楽を共有することは出来なかった。
奏でる人がいて、届ける人がいて、受け取る人がいて初めて音は音楽として認知される。
月日は流れ、旅は描いていた到達点とは違う景色を通過し今に至る。
楽しみにしていたことが突然なくなったり、幸せが一瞬で奪われてしまうこと、自分の意思だけではどうしようもない悲しみにぶつかることなんて山ほどある。嫌気が差すほどの不条理との戦いなんだ。本当に辛い時、そうは思えないかもしれないけど、それでもきっと何かの意味はあって。軌道を逸れて別の未来へと向かったとしても、だからこそ出会える人や場所はあって、それぞれがその思いを抱いたまま、心を共有することが出来るのが音楽の素晴らしさの一つだと思う。
だから今が音楽で出会った全てのあなたとの道の先であるのは間違いないし、一緒に進んでいる旅の途中だと信じていたい。そんな想いで曲を作り続けています。
今も音楽が大好きです。(ラブレターだからね!)また手紙書きます。
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始。2枚のシングル、1枚アルバムをリリース。2016年活動休止。2019年にリリースした1stソロアルバム『RADIO WAVES』はミックス、マスタリングまでを自身で手掛けた意欲作。Apple Music、Spotifyなどで配信中。YUMECO RECORDSにて 「Ginger Ale Lover’s Radio」連載中。
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