はいそんな訳で始まりました〜GAL Radio。ここではラジオを聴くように、カフェで友人とまったりするように音楽について皆さんとお話ししようという場所でございます。
熱狂と感動と勇気を与えてくれたラグビーW杯日本大会が幕を閉じました。日本代表初のベスト8進出や世界トップクラスのプレーを国内で観戦出来た事、ラグビーが持つ素晴らしさの本質を多く体感出来た期間だったと思います。また同時期に発生した台風による水害で被災した各地を出場国代表がボランティアに出向く姿も印象的でした。往年のラグビーファンから今回初めて観戦された方まで皆さん心動かされましたよね? 今回もラグビーばりに心揺さぶる音楽についてお話して参ります! まずはこちらをお聴きください!
槇原敬之「聞き間違い」
あれ? マッキーの新曲かな? と思ったあなた、そうです。こちらYUKIさんの8th Album『まばたき』(2017年3月15日発売)収録曲のカバーなんです!
槇原敬之 カバーアルバムベスト盤『The Best of Listen To The Music』特設サイト
こちらに収録され再度注目されておりますYUKIさんの原曲をサンプル音源と合わせ3つのポイントで解説していきます。歌詞や曲、音のイメージなどは個人的な見解が多く含まれますので予めご了承くださいませ。では最後までお付き合い下さい!
ポイント1 *2番サビにキラーワード!
2番のサビにリスナーの心をグッと鷲掴む言葉としての強さを持ったメッセージが来る曲が好きです。テレビサイズでは2番はカットされがちですがそこもカットせずフルで演奏してくれるとすぐその番組が好きになったりします。2番に確信をつく言葉を紡いでいるということは一曲を通してちゃんと聴いてくれるリスナーを信用してくれているようなスタンスを感じられて好きなんだと思います。
槇原敬之さんがこの曲を是非カバーしたいと思われたのも2番サビの歌詞に胸打たれ涙したことがきっかけだそうです。(こちらのインタビューより)
それがこのフレーズです。
〈頑張る理由それなりに考えたけど 「素直で明るいだけで人には価値がある」と 誰でもいいもう少し早く教えてよ〉
もうこれは素敵が過ぎません? 素直で明るく生きること、自分がご機嫌でいることこそ日々の中で最も大切で素敵なことなのかもしれません。
ポイント2*哀しみと喜びの両方を描くアレンジ
原曲のアレンジはYUKIさんと長年タッグを組んできたagehasprings社長の玉井健二氏と百田瑠衣氏。力強いバンドと切ないストリングスが絡み哀しみと喜びを描いた涙腺にくる素敵な編曲となっております。YUKIさんの伸びやかな声を最大限活かした壮大な展開は近年のYUKIさんの曲の中でも高い人気を誇ります。
リスナーも思い出の中に連れていくイントロ
G G/F C/E Cm/E♭ G/D C#m7-5 CM7 D〉とルート音(和音を構成する芯となる音)GからCまで下がり続け最後のDだけ上がる進行。音が下がっていくことで心の奥底、記憶の中へと潜っていくような印象を受けます。音を分解して聴いてみましょう。
1.ルート音のみ
2.フレーズ
3.両方合わせて
懐かしい気持ちにさせる楽器、メロトロン
Bメロや大サビなど随所で出てくるメロトロンという鍵盤楽器、この音色がノスタルジーな感覚を与えます。鍵盤を弾くと中にあるアナログテープレコーダーに録音された暖かみのある音が鳴る作りでストリングスやブラス、コーラスなどの音が多用されこの曲ではフルートの音色が使われています。
4.メロトロン
5.The Beatlesの「Strawberry Fields Forever」のイントロでも有名
割り切れない思いは分数コードで
イントロでも使われていますがクライマックス感を醸し出す技法の一つに「分数コード」「onコード」と呼ばれるものがあります(今回は分数コードとして解説します)。
サビの一番大事な部分〈あの時 聞き間違いでないのなら〉が乗せられている和音がCM7 D/C Bm7 E7sus4 E7という進行で、ここでは2つ目のDが分数コードになっています。J-POPで多く使われている「王道進行」IV△7→V7→IIIm7→VImの変形で(こちらのサイトが詳しく解説してあります)和音はDを弾いてますがルートにはひとつ前のCが残っているという音になります。分数でない場合とどちらが良い悪いということはなく曲の表現したい気持ちによって使い分けるようなイメージです。Cが2小節続くことで風の中にいる感、グーっと切なさの推進力が増していく印象を与えます。分数コードでない進行との違いを比べてみましょう。
分数なし
6.ルート音のみ
7.コードと合わせて
分数あり
8.ルート音のみ
9.コードと合わせて
和音の響きがより立体的となり様々な思いを含んだ曲のテーマをより鮮明に描きます。
ドラマチックさを演出「クリシェ」
可愛らしい単語が出てきましたがクリシェとは「和音を構成する音の一つを階段のように下げたり上げたりして変化させていく進行」で繊細なイメージをもたらしてくれます。
私も好きで自分の曲では「波音」という曲で使用しています。この曲では最後のサビで使われています。
10.クリシェ
Em E♭aug G/D C#m7-5とルートが半音ずつ下がっていて、
マイナー:暗い印象を与える音
オーギュメント:緊張感のある音
分数コード:切なさ増してからの
フラットファイブ:不協和音を含んだ音
の順で不安定な音が続きます。
分数コードを含む王道進行からのクリシェ、そして再度王道進行が繰り返されることで思いの強さを表現し、アウトロのGコードの着地へと向かい開放感を感じさせながらやさしさに包まれながら解決していく訳です!
以上を踏まえラストサビの後半を流れで聴いてみましょう。これらの和音の響かせ方や進行で心を揺さぶりグッと感動を与えてくれるのです!
11.まとめ
ポイント3 *本当に聞き間違いなのか問題
GAL Radio第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」でもお話しましたがタイトルがもたらすマジックがございまして、「聞き間違い」は〈あの時 聞き間違いでないのなら 風の中「大丈夫」そう聞こえたよ〉と結末は聞き間違いではないと信じる事で主人公が前に進んでいきます。
ここで一つ疑問が生まれます。大丈夫、そう聞こえたのを相手に直接確かめないのは何故か。「今もお互いその真意を聞ける距離にいるけれど確かめるだけ野暮」と考えているとも取れますがここでは「確かめる術がない、もう会えない相手に対しての想いを歌っている」と仮定します。
この問題を解決するために歌詞を紐解いていきましょう。
瞳を輝かせまだ見ぬ世界に胸を躍らせ純粋で若く真っ直ぐに歩いていく1番。しかしサビでは一転〈哀しみが頬を伝い 風向きが変わって言っても君にしかない力を誇れますように〉と思いがけない事が起きます。それでも自分の持っている育ててきた大切な力に誇りを持ってねと相手にエールを送ります。
2番ではすれ違う人の傘、ぶつかる、互い違いのボタン、かけ間違え、おいしい夢だけ食べて生きられないよ、などと時が経ち大人になり悩んでいる姿が垣間見えます。お互いが日々の様々なことに影響され離れていってしまっているように感じました。
更に先ほどご紹介した2番サビの歌詞の最後は〈「素直で明るいだけで人には価値がある」と 誰でもいいもう少し早く教えてよ〉は何故早く教えてよなのか。
「もう少し早く〜」ということは今現在はそれを教わった状態を指しており、それに早く気付けていれば素直で明るい、つまり1番の二人でいた頃のような思いで今も一緒にいられたかもしれないと悔やんでいる。とすると君は会えない人ということが濃厚になっていきます。リスナーに素敵な価値観を提示する言葉ながらも曲のストーリーとしてもしっかり成り立っている歌詞は本当に凄いと思います。
美しい朝焼けを眺め今ここに存在していることだけで既に満たされていることを知り、私にしか歌えない歌があると前を向きます。君との別れがあったけれど出会えたことの幸せを感じること、心の中には君がいてその哀しみを経た自分だからこそ歌える歌がある。それはあの時私に向けて言ってくれた君への「大丈夫」であり「暗闇に追い越され その瞳が曇る日も 星へ続く梯子を登れますように」という言葉として歌われているのではないでしょうか。
ようやく3つ目のポイント「本当に聞き間違いなのか問題」の結論です。
その答えは「風の中」です。だけに。。。
冒頭のシーン〈今 何か言いかけたの? 風の音でよく聞こえないよ〉に対する答えが最後の一行であり、最後の一行の「あの時」とは最初の一行のよく聞こえなかった瞬間を指しています。相手の言葉は風でかき消されますが声、音としては耳に届いています。
その後も風向きが変わりお互い別々の場所で向かい風に立ち向かっていかないといけません。そんな時あの日同じ場所で強い風に吹かれていた時君が僕に言ってくれた言葉は「大丈夫」だったんだ。思うだけで今吹いている風にも立ち向かっていけると思える都合よく解釈するというと聞こえが悪いかもしれませんが捉え方次第で前を向けるなら向いた方がいい。自分にとっての真実を抱きしめて生きていくことを噛み締めている主人公の胸の中に吹く風を表しているのではないでしょうか。これが〈あの時 君が言ってくれた「大丈夫」で今も前に進めるよ〉だったりしたらなんとなく答えが出てしまっていて切なさが半減しません?
*まとめ
聞き間違いでないのならという言葉は「きっと」という不安や迷いが渦巻く未来という不確かなものに対して抱く希望的観測、感情を表していて、大丈夫かどうか分からない旅の途中の私と君に言い聞かせているのではないでしょうか。
曖昧だからこそ心に刻まれることもあって「大丈夫」が聞き間違いだったのかは分からなくても風の中一緒にいたこと、大切な君との出会いがあったことは確かなのです。やっぱ凄いよYUKIさん!!! 今回はこの辺でお別れです。最後までありがとうございました。
秋の風が冷たくなってきております、御身体ご自愛下さいませ。
高橋 圭●1988年5月3日生まれ。2011年から作曲、ギターを務めるgood sleepsのALBUM『SIGNAL』はiTunes store、Apple MUSICにて配信中。Twitter:@zazamino
good sleeps
http://good-sleep.jimdo.com/
イラスト:matsun
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」