梅雨明けとともに強い日差しに蝉の鳴く声。夏ですね。年々酷暑になっているような気がしますが、各地で楽しみなイベントが盛りだくさん。水分補給と暑さ対策をしっかりして、身体をいたわりながら楽しみたいです。
今回は、7月19日に神戸会館こくさいホールで行われた家入レオちゃんのライブ “ 7th LiveTour 2019 ~Duo~ ” の様子をお届けしたいと思います。
バンドメンバーが演奏を始めるなか、黒とブルーを基調とした衣装で登場したレオちゃん。オープニング曲「Prime Numbers」を歌い出すと、その澄んだ声と歌のうまさにまず感激した。満員の会場も聞き惚れているのがわかる。続いて「もし君を許せたら」などドラマの主題歌としても耳なじみのある(アルバム『DUO』に収録されている)曲を披露していくのだが、たゆたうようなやわらかさと安心感のある声にタイアップ曲が多い理由が一瞬でわかったような気がした。レオちゃんは「みなさんー!『DUO』は聴いてくれましたかー?」と元気よくたずね、会場からの「聴いた
よー!」という声ににっこりと微笑んだ(可愛い!私の心の声)。4月に発売された『DUO』は、さまざまなアーティストとのコラボレーションによって生まれたアルバム。「私と曲はオンリーワン」だと明かし(たとえば、曲の主人公がコーヒーを飲まないなら、自分も飲まなくなるのだそう)、今日はツアー最後の地方公演、とても楽しみにしていたこと、そして「音のシャワーをたっぷり浴びて帰ってくださいー!」と話した。
続いて、初めてライブに来た人も、いつも来てくれている人も楽しめるようにと、ドラマの主題歌を3曲、アレンジを変えて演奏。ベースラインからはじまった「君がくれた夏」はその意外性にどきりとしたし、聴きたかった「Silly」「ずっと、ふたりで」も、音源とは違うライブ感のある音に惹き込まれた。また、「Relax」では会場ごとに即興でアレンジ。その日限りのセッションだなんて、なんて贅沢なんだろう!ほかの会場は「ちゃんぽん風」とか「ジャズ風」アレンジがあったらしいが、この日はおまかせのような感じでレオちゃんがバンドメンバーを仕切る姿もみられ、頼もしい光景だった。どんな音にも自然になじんでいく姿が素敵だった。今回もレオちゃんを盛り立てるバンドメンバーは、超売れっ子のミュージシャンたちだ。さまざまなアーティストのドラムを務める玉田豊夢さんの音は、ダイレクトに心臓に届いてくる。決して派手なパフォーマンスではないけれど、その存在感はほかに類を見ない。みんな、爽やかで憂いに満ちた“家入レオ”の音楽に、一癖も二癖もあるスパイスを絶妙なバランスで投入し、奥行きのある、かっこいい唯一無二の世界を作り上げている。そんな豪華な音が聴けるのもレオちゃんのライブの魅力なのだ。
ステージはもちろん、会場の空気も変わったような気がしたのはシンガーソングライター・小谷美紗子さんが手がけた曲「JIKU」。ステージに映し出されたのは、象徴的な映像、くまのぬいぐるみ、ナイフ、遊園地。そして、まるで舞台のように、時にはステージに座り込んでこの曲の世界観を体現していく。小谷さんのエッセンスにレオちゃんの聡明さが加わって、NEW“家入レオ”を見たような気がして、圧巻だった。以前、地下鉄のホームで、小学校高学年くらいの女の子が母親に言っていたことがある。「どうして、白か黒じゃなきゃだめなの? どうしてグレーじゃだめなの?」と。涙をこらえながら、そう訴えていた少女が忘れられない。学校で何があったんだろう。お母さんは困っていたけれど、私もそんな子ども時代だったから、グレーだっていいんだよと言ってあげたかった。自分に揺るぎない軸さえあれば〈自分の中の悪を悪だと決めなくてもいい/夜空はスカイブルーだと感じてもいいと〉。この曲を聴いて、あの少女はどうしているだろうと思わずにはいられなかった。
ステージ後半は、幻想的なライトのなか「Bicolor」のゆらめくようなサウンドに真壁陽平さんのギターから放たれるメロディーがうねり、「Overflow」はKing Gnuの世界とレオちゃんの融合が新鮮で最高にかっこよかった。「JIKU」同様に、レオちゃんはまたひとつ、新しいアイテム(可能性や強み)を手に入れたのだろう。そして今度は体育会系のノリで「いくよー!」と叫び、腕を振り上げたりステージを動きまわったり躍動的だ。ロックチューン「ファンタジー」では、ベースの須藤優さんや真壁さんも客席の前に出てきて、ファンを煽りながら間近で音を聴かせて魅せた。〈愛されたい/抱きしめたい/泣きたくない〉と17歳の時に作った「Bless You」を歌い終わり、話し始めたレオちゃんは、少し涙ぐんでいるように見えた。24歳で作り上げた「サザンカ」のこと、「私の人生やっとここまで来た」とインタビューで語っていたのを読んだとき、17歳から第一線で駆け抜けてきて、どれほどの想いでここまで来たんだろうと想像して涙が出たのだけれど、「人生の一区切り」だと、今こうして、メロディーや歌詞はこれからも変わっていくけれど、自分の魂のカタチは変わらないとまっすぐに前を見つめた、その瞳はとても美しかった。歌の終盤では、今日この空間に集まった人たちへ〈歩いていくよ/今日も/歌っていくよ/明日も〉と約束のようにささやき、置かれていたアコースティックギターを大切に抱えて、バンドとともに音を鳴らした。それはこれからの“家入レオ”を象徴するかのような、どこまでも続いていくような煌めきに満ちたアウトロだった。
そして、アンコールのラストで歌われたのは、アルバムでもラストを飾る「Bouquet」。〈あなたよ/もう泣かないで〉と優しく語りかける。ライブ中、終始ファンを気遣う姿、言葉が印象的だった。今日は「楽しんでくれているかな」とか「少し寂しそうだな」とか、ちゃんとステージからみんなの顔を見ているよ。私はいつだって味方だよと。そんな想いをぎゅっと集めたブーケが、壮大でたおやかなメロディーとともに会場を包みこんだ。すべてを浄化して、きっと、誰もが、涙をぬぐって笑顔になっていたに違いない。ステージの中央で、凛とした表情で立つ姿はとても神々しくて、女神のようだった。きっとこれからもレオちゃんは丁寧に言葉を紡ぎ、等身大の歌や愛を届けてくれるだろう。あの日泣いていた少女のもとに、レオちゃんの音楽が届いていることを心から願っている。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在はWeb校正をしたり文章を書いたり。先日、名馬・ディープインパクトが亡くなりました。三冠がかかった菊花賞では、そのゴールの瞬間を観たいと徹夜して開門を待ったことも。どんな競馬場でもどんな距離でも小柄な体でゴールを目指して飛んでくる姿にはしびれました。「絶対」はないと言われる競馬で「絶対」はあるんじゃないかと本気で思わせてくれた馬。思い出は尽きないです。