エンドロールのあとも、ずっと、余韻を味わっていた。認知症を患った父と、家族の時間を描いた映画『長いお別れ』。実は、観るのを少し躊躇していた作品だった。老いていくことは、避けては通れないこと。近い将来65歳以上の1/5は発症するという認知症(フライヤーより・出典:厚生労働省)のことを、少しでも理解できたらと、半ば観念して鑑賞に至ったのだが、悲しいだけではない、笑ったり泣いたり、とても愛おしい、心に迫る作品だった。機会があったら、ぜひ幅広い世代の方に観てもらえたらと思う。
●STORY
父の70歳の誕生日。久しぶりに帰省した娘たちに母から告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった。 それぞれの人生の岐路に立たされている姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付き前に進んでいく。 ゆっくり記憶を失っていく父との7年間の末に、家族が選んだ新しい未来とは――。(公式HPより)
自分のやりたいことが明白なのに、思うようにいかないもどかしさを抱える東(ひがし)家の次女・芙美役には、蒼井優さん。海外生活に悩みながらも、凛とした態度で家族を引っ張る長女・麻里には、竹内結子さん。(最近、実生活でご結婚を発表された蒼井さんと竹内さん。このキラキラした美しい二人の姉妹役は一見の価値あり!)母親・曜子には、松原智恵子さん。少女のように可愛らしくて、まるで三姉妹みたいだった。そして、父親・昇平には、山﨑努さん。7年にわたって、症状が少しずつ進んでいく様子を、表情やしぐさなどで巧みに演じ分けられていた。実は、山﨑さんは、偶然、中島京子さんの原作を読んでおられたのだそう。そしてもし、この『長いお別れ』が映画化されるとしたら、自分にオファーが来るのではないか、という予感があったというのだから、不思議なめぐり合わせだ。
物語は、久しぶりに家族で、父の誕生日を祝うところから始まる。そこで初めて、娘たちは父の異変に気づくことになるのだが、監督は、撮影に入る前に、東家の家族(長女の夫や息子たちも)を招集して、昇平が認知症を発症する前という設定で、「誕生会」のリハーサルを催したのだそうだ。こういった監督の計らいによって、みんなが、自然と家族というものになっていったのではないだろうか。今まで、穏やかに日々を重ねてきたんだろうなと想像できる、家族の空気感が終始漂っていた。
個人的に大好きなのは、父が、褒められた時に見せる表情。誇らし気でとてもチャーミング。また、芙美と父の、縁側のシーン(下記の動画にあり)も印象的だ。ゆっくりと認知症が進み、父が父でなくなってしまう現実。会話も成立しづらくなっていく中で、傷心の芙美を精一杯慰めようとする父。「くりまるな」という、意味不明な言葉で。「くりまる?」と聞き返しながら、不思議と通じ合っている二人に惹き込まれていく。その、初めて聞いた言葉がふわり浮遊して、あたたかい気持ちに包まれた。今回初共演の二人だが、蒼井さんは10代の終わりごろ、山﨑さんの著書『俳優のノート』に出会い、線をひっぱったり書き込んだりして演技を学んだのだという。10年以上の時を経て、この作品で“大先生”との、父と娘としての共演はとても意味のあることで、きっと、このシーンも、奇跡の一つだといっても過言ではないと思う。監督から“芝居モンスター”と絶賛されていた蒼井さんの凄さがうかがえる尊いシーンだった。
そして、「父がいなくなった!」とみんなが探しまわる中、父が向かっていたのは? それは、愛おしい、家族の思い出の場所。母の言葉で、当時の父の思いを初めて知ることになる。小さかった娘たちが覚えていないことでも、父の心にはずっと、残っていたのだ。嬉しかったのは、娘たちだけじゃなくて、父も同じだったのだろう。父の行動が、一つひとつ、意味を持ってつながっている。記憶はなくなってしまうのではなく、大切なことは、ずっと生き続けていることを教えてくれるようだった。子どもが親を想う気持ち、親が子どもを想う気持ち…。子どもの喜んでいる顔、悲しい顔を、親は全部覚えている。家族の思い出は、子どもよりも親の方が遥かに強く深く、宝物として心に刻んでいるのかもしれない。
今年も折り返しましたね。母の手術、入院で幕を開けた2019年。あっという間過ぎてびっくりですが、何とか無事に半年過ごせたことに感謝です。あと半年も、健康で、笑って過ごせますように。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在はWeb校正をしたり文章を書いたり。先日、大阪で行われたウルフルズの「センチ センチ センチメンタルフィーバー“飛翔篇”」ツアーファイナルを観てきました。オープニングから会場を巻き込んでいくトータスさんの底知れぬパワーとアットホームな雰囲気。楽しくて、周りのみんなが笑顔だったのも幸せな光景でした。サポートの桜井さん(真心ブラザーズ)にも客席から「秀俊!」と温かい声援が飛び、すかさずトータスさんが「身内か」とつっこんでいたのがおかしかった!。