いよいよ今年も梅雨入りしましたね。気候もよくて一年のなかで一番好きな5月は、あっという間に過ぎ去ったけれど、自分の誕生月であり、また、友達にも5月生まれが多いので「おめでとう!」が飛び交う、嬉しくてにぎやかな月でした。
そして、心待ちにしていたThe Birthdayのツアー「VIVIAN KILLERS TOUR 2019」も始まりました。誕生月に観るThe Birthdayのライブは格別。今日は先日(5月29日)、大阪・味園ユニバースで行われたライブのことを、ネタバレにならないように、そっとお伝えしたいと思います。
かつてはキャバレーだったという味園ユニバース。天井から吊るされたきらびやかな電飾、惑星を模したカラフルなオブジェ…。昭和の、ギラギラした時代を思わせる異色の空間と、ステージに現れた4人の渋い雰囲気がぴったりでフロアは大興奮! 特に、サングラスにオールバックのチバさん(Vo. / Gt.チバユウスケ)には、ため息が漏れたほど。ため息と歓声が交差するなか、一瞬の静寂のあとフジケンことフジイケンジさんのギターがオープニングを告げる。チバさんがサングラス越しにフロアを見渡しながら、にやりとし、ハルキくん(Ba.ヒライハルキ)の美しいベースラインがフロアを包む。パーマヘアで端正な顔を覆い隠し、しなやかにリズムを刻むプレイスタイルはたまらなくセクシーだ。
チバさんが持ってきた曲を中心に、ひらめいたフレーズを乗せたりセッションをしたりしながら、約1年かけて作り上げたというアルバム『VIVIAN KILLERS』。試行錯誤を重ね、苦労した曲もあったというが、4人のヒストリーを紐解くようなフレーズやリズムの数々に、The Birthdayの充実ぶりが伝わってくるようだ。一見ラフに見えても、実は緻密に計算されているのではないか、そこに存在することが必然なのだと思わせられるフレーズ。散りばめられた余白の部分にも惹かれてしまう。そんな、あらゆるジャンルの枠を越えた『VIVIAN KILLERS』と旧アルバムの曲を織り交ぜたセットリストがとんでもなくかっこいい。
今日も、キュウちゃん(Dr.クハラカズユキ)の挨拶で和む。大阪ではいちだんと多いキュウちゃんコール。昔からファンの声援を拾ってくれる、心優しくて頼もしい存在だ。この日も「ここ(味園ユニバース)、いいですよねぇ」と言ってくれた。私たちも会場を見渡しながら大きく頷いていた時、ファンから「チバさんはどう?」と声が飛んだ。すると、一瞬の間があって「どこでも一緒」。誰もが予想しなかった、その一言に、こちらも一瞬の間があって「おおーっ!」と歓声が上がる。ビリビリと身体中に電流が走ったような衝撃。くーっ、かっこいい! そこに美学を見たような気がしたのだ。歌う場所があれば、それでいい。どこであっても変わりはない。「今がすべて」だというチバさんの生き様を見せつけられたような気がしたから。もしかしたら、ステージ上のメンバーもうなっていたかもしれないな。ケンジさんが、ふっと微笑む顔が見えた。
そのあとのステージは、もう会場にいるみんながチバさんにうっとりしていたと思う(きっと、間違いない)。チバさんは、マラカスを持ってハンドマイクで踊ったり、「夏だねぇ」と言ってみたり。たおやかな声に包まれたあの曲は、4人の魂が共鳴し合っているようなグルーヴにトリハダが立った。感極まって泣いている人もいた。ライトに照らされたチバさんの穏やかな表情、ハルキくんのダイナミックな動きに滴る汗、ケンジさんの美しくて衝動的なフレーズ、そしてステージとフロアを包みこむキュウちゃんの渾身のドラム。The Birthdayというバンドが、これからのロックシーンを牽引していくビジョンがはっきりと見えたような気がした。そして、ある曲のギターソロで「あぁ、やっぱりケンジさんのギターが好きだ」と再確認した。曇りのない、キャリアを感じさせる豊かなメロディー、そして、変態性がチラつくマニアックなフレーズ…。シャイだけど、ギターを持つとフロアを煽り、ドスの効いたプレイでファンを魅了する。チバさんから、俺の知ってるギタリストは変態しかいないと言わせた人(笑)。The Birthdayの、未来への舵取り役を担っている。
アンコールで、缶ビール片手にニコニコと上機嫌で現れたチバさん。そして、言った。「あのね! …あのさ~、あのね! なんだっけ、来年? 来年じゃねーや、今年だ。夏? そう夏!」。キュウちゃんを振り返りながら確認するように話す、その可愛らしさといったら。みんな、何だろうとくすくす笑いながら、チバさんに釘付けになっている。要は、この夏に『(チバさん曰く)B面集』を発売するのだそう。いつものキュウちゃんと比べて、チバさんのそれは、ぐだぐだの業務連絡だったけど、ファンは沸き、メンバーもニコニコ笑っている。なんて、幸せな光景なんだろう。さらに、今から、新曲「ペーパームーン」の音源を録るから「お前らも協力してくれよ」と。なんてかっこいいんだろう。「間違えたらもう一回やるからな!」と笑いながらもぶっきらぼうに言い放つチバさん。誰かが言ってた言葉を思い出した。チバさんは「男が惚れる男」だと。今日もどこかのライブハウスで、チバさんは無防備に可愛げを発揮し、The Birthdayは愛にあふれたロックンロールを鳴らしているだろう。
アベ(アベフトシ/元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)が亡くなって、この夏で10年になる。私にとって、長い長い10年だった。忘れたことなんて、一度もない。それはきっと、みんな同じ思いだろう。でも、ようやく、次の景色が見えてきたような気がする。そして、チバさんの隣にいる人が、ケンジさんでよかった。今、心からそう思っている。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在はWeb校正をしたり文章を書いたり。先日、大阪へコラージュ作家・井上陽子さんの展示会に行ってきました。優しい色合いのコラージュ作品が大好きで、色と色の合わせ方、重なりの絶妙さに見惚れるばかり。在廊されていた井上さんの気さくでかっこいいお人柄にときめき、同じ滋賀県出身ということで滋賀愛溢れるお話が聞けたことも嬉しくて幸せな時間を過ごしました。