光、という言葉を聞いて何を連想するだろう。
希望、未来、神聖、救い、あるいは闇か。
陰陽を表す太極図は、陰と陽、すなわち光と影が同じ割合で描かれている。
だけど果たして本当に光と影は同じ大きさなのだろうか。
光のイメージからあぶれてしまったものが皆、影に属するというのなら、影は光の何倍も大きくなくてはならないはずだ。
それとも光に属する一握りのものたちは悠々と羽を広げ、影に属するその他大勢は肩をすぼめて鮨詰めになっているのか。いや、影がブラックホールへと繫がっているだけかもしれない。
馬鹿馬鹿しいと呆れながらも、こんな風に考えを巡らせてしまうのは、やはり光に焦がれる気持ちがあるからだと思う。
手を伸ばせば、いつかきっと――。
そうやって何度へし折られても消え損なう希望に憑りつかれたロックンロールを。
■光に焦がれて、光で焦がせ ― The Doggy Paddle『highlight-EP』に寄せて
もしも全く光が見えなかったら、もっと簡単にあきらめられただろう。
可能性がないと。所詮自分には無理だったのだと。
人知れず夢の息の根を止め葬って、それでおしまい。
だけど少しでも、光が見えてしまったら。
見て見ぬふりをして、あきらめることができるだろうか。
たぶん無理だ。
それどころか、あと少し、もう少しと躍起になって手を伸ばす。
そうなったらもう、後戻りなんて出来やしない。
そんな夢追い人の業に真っ正面から向きあったのが、4月17日にThe Doggy Paddleがリリースした新EP『highlight-EP』だ。
彼らは2008年の結成以来、所属事務所を持たず自主レーベルを立ち上げ、楽曲制作のみならずグッズやアートワークのデザインに至るまでをメンバーのみで行ってきた、いわゆるDIYバンド。グッドメロディーを軸としたロックンロールと、表現力豊かなライブパフォーマンスには定評があるものの、大型サーキットイベントへの出演やデビューとは縁遠い活動となっていた。
▼「あなたに届け」―TSUTAYA O-WEST LIVE
仲間のバンドが、ひとつまたひとつと第一線を退いて行く中、彼らは昨年、結成10周年を祝してバンド史上最大のキャパシティとなるTSUTAYA O-WESTワンマン公演を開催した。結果は大成功。しかし、その後バンドを取り巻く状況が変わったかと言えば、大きな変化はないままだ。
けれどあの日、彼らと会場に駆け付けた多くのファンは、バンドの未来に光を見たに違いない。それから11カ月。彼らは「光」をテーマにした4曲入りのEPを発売した。
メインソングライターの恵守 佑太(Vo / Gt)は「光」というテーマについて〈夢や希望で溢れ返るものの代名詞としてだけでなく、暴いたり焼いたり追い立てたりしてくることもあるもの〉だと語る。
そんな思いが如実に表れているのが、リードトラックの「向日性」だ。
▼「向日性」MV
身の丈に合った夢ってなんですか
誰も答えてはくれないじゃないか
あぁあ なあ?
夢の死骸 を振り回して
何と戦ってんだよ
非常事態を繰り返して
これで最後だと願おう
それが苦い期待だなんて
誰が笑っているんだよ
それは光みたいなもんで そう
手を伸ばすもんだろ
無傷では書けない歌詞だ。でも、絶望した者の言葉でもない。
タイトルの「向日性」とは、植物が光の方へ伸びていく性質を指す言葉だ。それと同じで、否が応にも人は結局、光を目指してしまうのだろう。それならば、とことん追いかけてやろうじゃないか。そんな気概を感じる。
そして彼らのその姿が、今度は誰かが追うべき光になっていくのだろう。
その眩しさに、遠ざけたくなることもある。
手の届かなさに、嫌気がさすこともある。
照らされるほどに自分を取り巻く影が濃くなっていくような感覚に陥る。
もうやめておけと誰かが言う。
それでもまだ、自分の手は前に伸びようとしている。
ならばドギーパドルのせいにして、自分の中にある「向日性」を信じてみるのも一興だ。
▼The Doggy Paddle『highlight-EP』3文解説
1. 荒夜のWanderers
壮大なRPGに巻き込まれたかのような冒険感たっぷりのダンスナンバー。ワイルドなビートと、必殺技級のギターフレーズがダイナミックに躍らせる。ファルセットを効かせた恵守のヴォーカルもニクい。
2. メロディが零れ落ちた
個人的イチオシの疾走感溢れるガレージロック。銃撃戦さながらに飛び交う、ギターの応酬は実にスリリング。映像が鮮明に浮かぶドラマチックな歌詞も相俟って、まるでハードボイルド映画を観ているかのような感覚に。
3. secret late show
今作唯一の横道(Gt)作曲。〈殺し文句を叩き込んで 夜が明けるまで君は僕のもの〉なんてキザな台詞も飛び出すディスコチューン。そしてクールかつセクシーなベースラインに酔える。
4. 向日性
ライブではギターを置き、ハンドマイクのスタイルで歌う恵守。バンドマンのみならず、全ての夢追い人の業に捧ぐロックンロール。負け犬の歌じゃない、これは確かに希望の歌なのだ。
▼リリース情報
The Doggy Paddle 『highlight-EP』
2019年4月17日発売
¥1,500-
1. 荒夜のWanderers
2. メロディが零れ落ちた
3. secret late show
4. 向日性
※タワーレコード限定発売
▼ライブ情報
4月26日(金)下北沢Daisy Bar
「The Doggy Paddle “highlight-EP” Release Live Series最光~SAIKOH~」
The Doggy Paddle / moll / hotspling / ブリキオーケストラ
5月10日(金)名古屋CLUB ROCK’NROLL
「highlight-EP Release Live Series最光〜SAIKOH〜 名古屋」
The Doggy Paddle 他
5月16日(木)神戸RAT
「highlight-EP Release Live Series最光〜SAIKOH〜 神戸」
The Doggy Paddle / moll / バニーブルース 他
5月17日(金)寺田町Fireloop
「highlight-EP Release Live Series最光〜SAIKOH〜 大阪&moll 8th SINGLE『HIGHCOLLAR』Release Tour」
The Doggy Paddle / moll / あまのじゃく / MIDNIGHT SALVAGE
5月27日(月)池袋adm
「The Doggy Paddle “highlight-EP” Release Live Series最光~SAIKOH~ FINAL」
The Doggy Paddle / 鴉
▼The Doggy Paddle
オフィシャルサイト:http://thedoggypaddle.jp/
Twitter:https://twitter.com/TheDoggyPaddle
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.11 ― ASIAN KUNG-FU GENERATION「或る街の群青」
光と闇、陰と陽。光に手を伸ばす。そのモチーフから連想したのは松本大洋の名作『鉄コン筋クリート』だった。人間内在する光と影を、シロとクロという2人の少年に仮託して描いた漫画作品だが、2人の関係性が非常に興味深いのだ。物語はずっと、シロを守る強いクロと、クロに守られる純粋無垢なシロ、という構図で進んでいく。しかし物語が終盤に差し掛かると、クロはシロを守ることで自らの存在意義を見出していたという逆転の関係性が明るみになる。そしてシロもまた、クロの存在が遠ざかると精神のバランスを崩していく……。と、言う訳で今回はアニメ映画版『鉄コン筋クリート』の主題歌「或る街の群青」でした。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。先月、DOESの「曇天」と「三月」のことを書きましたが、先日の一夜限りの復活ライブにて良曲とも聴くことができました。感無量