■「一番の特等席をありがとう」。あいみょん、初の武道館公演は1万4千人の観衆と大合唱
 
 
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“今をときめく”。その言葉が今誰よりもふさわしいアーティスト、それが兵庫県西宮市出身の23歳のシンガーソングライター・あいみょんだ。ハスキーな声色で、人の美しさも醜さもやらしさも包み隠さず歌ってのける彼女が初めてギターを手に曲を書いたのは15歳の頃。関西での活動を経て20歳で上京し、翌年2016年11月に「生きていたいんだよな」でメジャーデビュー。以降リリースした楽曲は、映画主題歌や人気ドラマ主題歌に起用され、各局の音楽番組はこぞって彼女を注目アーティストと取り上げた。2018年に初出場を果たしたNHK紅白歌合戦での好演も記憶に新しく、今や彼女は国民的アーティストとしてその名を日本中に轟かせる存在となった。


2019年2月18日、そんな彼女がついに日本武道館のステージに立った。1万4千人の大歓声の中、黄色いシャツをたなびかせながら颯爽とセンターステージへ歩いてくる姿は堂々たるもので、貫禄すら感じさせた。「あいみょん! あいみょん!」と呼ぶ声も、彼女がギターを構えると自然と静まり束の間の静寂が訪れる。深く息を吸い込み、紅白でも披露した「マリーゴールド」からライブをスタート。この日は、アリーナ中央に組まれたステージを観客が360°囲みこむような会場配置で、どの座席からも彼女の姿がよく見えた。ステージにたった一人。全編弾き語りスタイルをとり、アコースティックギターの音色にのって穏やかに伸びてゆく歌声は、かつてのストリートライブを聴いているような心地がした。


冒頭から4曲を終え、「近いですね! よくライブでアーティストが『後ろも見えてるよー!』って言うやつ、あれ見えてないと思うんですけど、今日はホンマに見えてます!」と口を開いたあいみょん。観客と手を振り交わしながら「せっかく360°なので、このままだと東エリアの人、わたしの左ホクロしか見えへんと思うし回ります! (ステージの)下に人を入れてね…って、うそうそ(笑)」とリラックスした調子で冗談も交え、会場の空気を和ませた。


中学3年生からの親友のことを赤裸々な言葉で歌った「◯◯ちゃん」(ちなみに◯◯ちゃんは、この日も会場に駆けつけていたという)。新曲「ハルノヒ」で〈もうこんなにも幸せ〉と爽やかに歌い上げたかと思えば、インディーズ時代の懐かしのナンバー「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」では一転、好きな人を独占したい想いゆえ「死ねー!」とギターを激しく掻き鳴らし叫ぶ。彼女の歌は春の陽気のように和らいだり、鋭いナイフのように研ぎ澄まされたり、曲ごとに凄まじい早さで表情を変えていく。


ライブ中盤に設けられた休憩タイムも、あいみょんと「◯◯ちゃん」のモデルとなった友達とのラジオトークが放送され度々笑いが起こり、観客は飽きることのない時間を過ごす。そして、「憧れてきたんだ」から後半戦へ。ステージから放射状に伸びたライトが武道館の天井に星空を描いた「今夜このまま」、〈まだ眠りたくないの〉というフレーズに続いてオーディエンスが一斉に「SEX!」と大声を張り上げあいみょんをニヤリとさせた「ふたりの世界」。不意に歌詞が飛んでしまった「いつまでも」でも、咄嗟に「私はゴッホにはなりたくない。生きてるうちにちゃんと評価されて死にたい」と楽曲の世界観とリンクした胸の内を吐露し、アクシデントをまるで演出かのようなアドリブに変え、オーディエンスを引きつけた。


本公演のタイトル「1995」はあいみょんの生まれ年であり、彼女にとって人生のスタート地点を指す数字だ。人生の原点と、“弾き語り”という演奏スタイルがシンガーソングライターたるものの原点であることを重ねて名付けたことを明かし、「原点と原点を結びつけるような何か特別なことがしたいと思って、新曲作ってきました!」と新曲「1995」を披露。「私ホンマこういうのできへんのやけど、せっかくなのでやりたいんで、真似してください!」と誘いかければ、初披露の曲とは思えない大きなシンガロングがわき起こった。そしてラストナンバーは、代表曲「君はロックを聴かない」。あいみょんの「みんなで歌いたい」との提案に、歌い出しから大サビまでのフルコーラスを1万4千人が熱唱。きっと思い思いの感情や記憶を抱きながら〈僕はこんな歌であんな歌で / 恋を乗り越えてきた〉と、センターステージの彼女と同じように声を張り上げた。


大合唱の余韻に重なる歓声の中、「みなさん、今日は本当に私に一番の特等席をありがとうございました」とぐるっと会場を見回したあいみょん。「この景色を『独り占めして』と言ってくれた人がいて。私のマネージャーさんなんですけど、最後に呼んでもいいですか?」と、陰の立役者をステージに呼び込む。思いがけないサプライズに戸惑う女性マネージャーをぎゅっと抱きしめると、そんな2人へ割れんばかりの拍手が送られた。そして最後に「路上ライブからこんなところまで来させてくれて、どうもありがとうございました!」と締めくくった彼女の声は、涙で少しかすれていた。


傍から見たら、まるで幸運が味方したシンデレラストーリーのように、地元関西の路上から武道館までひとっ飛びで昇りつめたように思えるかもしれない。実際、そのくらい彼女の活躍は目覚ましいものでもあった。ただ、この日鮮烈な歌詞の数々を直に浴びて思うのは、きっと彼女は「あいみょん」としてのストーリーをおとぎ話に形容されるような軽やかなものではなく、いつだって自分の力で一歩一歩進んできたということ。そして、武道館1万4千席を即完するほどの人気を獲得してもなお、「母ちゃん、娘のこの状況見たらなんて言うかな〜」なんて素直に感動し、支えてくれた人へ感謝を口にできる“普通”の感覚がある。だからこそ、時に感じる狂気も、生々しいエロも、愛も、幸せも、すべてがきちんと等身大の言葉として彼女の魂を宿しリスナーへ響くのだ。かっこいい。年齢も性別も関係なくそう感じさせる彼女は、間違いなくロックスターの風格を身にまとっていた。

 
 

セットリスト
01. マリーゴールド
02. 愛を伝えたいだとか
03. わかってない
04. 満月の夜なら
05. 風のささやき
06. 恋をしたから
07. ○○ちゃん
08. ハルノヒ(新曲)
09. 貴方解剖純愛歌〜死ね〜
10. 憧れてきたんだ
11. 今夜このまま
12. ふたりの世界
13. どうせ死ぬなら
14. GOOD NIGHT BABY
15. いつまでも
16. 生きていたんだよな
17. 1995(新曲)
18. 君はロックを聴かない

 
 
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール画像岡部 瑞希●1992年生まれ、愛知県在住の会社員兼音楽ライター。名古屋の音楽情報サイト「しゃちほこロック」も運営。“自分の好きな自分でいる”をモットーと口実に、今宵もライブハウスへ。昂ぶる夜にピアノを叩き、3日に1回カレーを食べることで健やかな日々を送っています。Twitter:@momry1023