2019年がスタートしました。平成と新元号が同居する年。きっと、記憶に残る1年になるんだろうな。みなさまにとって、幸せな1年になりますように。
年末年始、実家の押し入れから何十年ぶりかに取り出したもの。それは昭和の一時代を鮮やかに彩ったチェッカーズのグッズでした。FCの会報、コンサートのパンフレット、そしてビデオテープ! 少し年代ものの香りがして当時の空気がふわりとよみがえってきました。太陽が燦燦と輝くなか、真っ黒になって自転車を漕いでいたこと、そして当時からライブレポートを書いていたことも(まったく変わっていません!笑)。
まさか、デビュー35周年をお祝いする日が来るなんて、夢にも思ってもいませんでした。あの頃の私に教えてあげたい。寝ても覚めても、チェッカーズ一色だった私に、「間違ってないよ」と。「とてつもなくかっこいい、器の大きい人たちだよ。見る目あるね!」と。
昨年9月から12月まで、35公演行われた「藤井フミヤ“35 Years of Love”35th ANNIVERSARY TOUR 2018」。私は3公演(10月20日滋賀県立文化産業交流会館、11月10日フェスティバルホール、11月25日神戸国際会館こくさいホール)に参加し、フミヤさんのパワー、オーラを堪能してきました。暗転した客席には、キラキラアイテムのLEDバッジやサイリュウムなどから華やかな蛍光色が放たれている。それは、フミヤさん、サックスで参加の尚之さんが、今なお私たちのアイドルだと思わせてくれる光景だった。ステージは、“F”と35周年の“3”と“5”を美しく配した立体的なセット。ブルージーなサウンドにのせて、フミヤさんが、ハープを吹きながら階段を降りてくるともうすごい歓声! 間違いなく、アイドル(笑)。黒のスポーティーなスーツで軽やかにリズムをとりながら、オープニングは、爽やかなR&Rナンバー「GIRIGIRIナイト」、不動の人気を誇る「タイムマシーン」へと続く。ライブで盛り上がる曲とあって、ファンのフリも揃い、すでに一体感の会場。フミヤさんが動く方向へ、みんなの視線、身体が動き、色彩が弾んでいる。
得意のパントマイムを披露した「なんかいいこと」では、被っていたハットを客席に投げ、それを投げ返してもらうというシーンも。思いがけず、フミヤさんからのハットをキャッチしたら、そりゃあ嬉しいに決まってる! フミヤさん、最初はさりげなく“返して”とジェスチャー。でも舞い上がるファンに、そのうち“早く(投げて)! 早く!”と催促したり、時には、客席でハット争奪戦が勃発! フミヤさんの手元に戻ってきた時には、何とも可哀想な姿になっていたり(笑)。こんな風にファンとのコミュニケーションも忘れないのが、フミヤさんのライブの魅力なのだと思う。今回のツアーは、ファン投票によって選ばれた100曲を収録したベストアルバム『25/35』、チェッカーズ時代、尚之さんとのユニット・F-BLOODの曲などが盛り込まれた贅沢な選曲。得意のロックナンバーや躍動感に満ちたダンスミュージックで盛り上がり、じっくりとバラードを聴かせて、藤井フミヤの世界観に浸る。バンドメンバー、スタッフの方々も一丸となって創り出すステージングは、映画のワンシーンを観ているような、充足感にも包まれる。
幻想的な演出ではじまった「素直にI’m Sorry」は、時間を遡ったような感覚に立ちすくんでしまった。チェッカーズ時代の名曲に、悲鳴のような、ため息のような声が上がる。周りには涙をぬぐうファンの姿も多く見られた。みんな、当時の自分がオーバーラップしたのだろう。また、アコースティックギターで奏でられた「Friends and Dream」。〈俺たちは いつからガキじゃなくなったんだろう 俺たちは いつから大人になったんだろう〉というセリフと、間髪入れずに入るサックスの音色にはトリハダが立った。大土井裕二さん(Ba.)が作曲した「I Love you,SAYONARA」の再生率は、私史上、最高かもしれないな。今も昔も変わらない、私たちの身体には、チェッカーズが、フミヤさんの歌が、細胞の隅々にまで浸透しているのだと思う。
それは歌だけでなく、発する言葉もそうだ。以前、あるインタビューで、「愛をくださいと言われたら?」と聞かれ、こう答えていた。「手を握る。手と手でキモチを伝える」と。なんてロマンチストな人なんだろう。私はこの言葉を手帳に書き込み、ことあるごとに眺めながら、藤井フミヤという人に想いを巡らせてきたのだ。いつもファンに寄り添ってくれる人。どんなに、ステージから席が離れていても、すぐ目の前で歌ってくれているような気がするのはなぜだろう。まっすぐに、歌を、想いを、愛を伝えてくれている。隅々にまで届けられているのだ。また、言葉の端々に知性を感じさせ、大スターでありながら、周りをさりげなく気遣い、常にユーモアを忘れない人。“自分を魅せる”センスは、きっと天性のものなのだと思う。デビューから35年、「俺のことも、薄目で見てくれれば、まだまだ韓流スターには負けない」と笑い、「みなさんもあれから全然……だいぶんメイクがうまくなったな(笑)」とファンをいじる。黙っていれば、薄目でなくてもかっこいいのに、今後も、薄目で見るようにと笑わせてくれる。関西では、坂田利夫さんの横歩きではけていったフミヤさん(笑)。そんな気さくなところが、多くの人たちをますますトリコにするのだろう。
このツアーがスタートする前日の9月21日。デビューの記念日に、ファンクラブ会員限定で行われたライブに、チェッカーズのリーダー武内享さん(Gt.)、裕二さんがサプライズで登場。解散以来2度目の共演となる4人は、驚きと嬉しさで号泣しているファンの前で、チェッカーズの曲を披露したのだそうだ。聴きたかった、行きたかった! でもそれ以上に、嬉しかった。そして、今から約30年前、10年後のチェッカーズについて聞かれた裕二さんが語っていた言葉を思い出した。
「やっぱりチェッカーズを続けていたいです。ずっと残しておきたいと思っているし。(メンバーは)みんなそうだと思うけど、チェッカーズっていうのがあんのよ(と、言いながら、両手で何かを包み込むようにしている)。そりゃ、7人集まったらチェッカーズなんだけど、チェッカーズっていう物、じゃないけど、なんかそういうのがあって、それで、それを一生懸命よくしようってかんじで、みんなやってるみたいなね。だからチェッカーズはかわいいしね、自分で。たとえ売れなくなったり、解散するようなことになっても、それでもチェッカーズはあるんだよ。7人がいる間は、チェッカーズっていうのは絶対あるんだ、そういう考えだから。これは死ぬまで、と思ってもらっていいと思います。それぞれが違うことをやってるかもしれないけど、やっぱりチェッカーズはずっとありますから」
メンバーのことを黙って見守っている裕二さんが、たまに発する言葉はいつも核心をついたものだった。私は解散が受け止められず、悲しいことが続いて封印していた時期もあった。でも、今もこうしてステージ上で笑い合っているメンバーに想いを馳せ、心から、幸せだと思ったのだ。そして、ありがとう。
35年という気の遠くなるような年月を重ねて、フミヤさんはこう言ってくれた。
「未来は過去を変えてゆく」と。
あの日流した涙も、すべてチカラに変えてきた。今日のために、未来のために、今までがあったのだと思える。今こうして、目の前で歌い続けてくれていることがその証なのだ。フミヤさんは、これからも、しなやかに軽やかに、時代を牽引していくだろう。願わくば、また、少年のようにはしゃぐ彼らの姿が見てみたい。享さんのマニアックな話にみんなが湧く。フミヤさんがつっこみ、尚之さんがぼそぼそっとしゃべり、裕二さんが穏やかに笑っている。みんなの心のなかには、誰からも愛されていたクロベエ(Dr.徳永善也さん)がいる。もしかしたら、ステージ上で腕組みなんかして、一緒に笑っているのかもしれない。
明日を夢見ることは誰にだってできるから
今日より素晴らしい明日を
I have a dream
きっと叶うように
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校閲をしたり文章を書いたり。本文に収まりきれずこちらでも(笑)。フミヤさんと同じく、尚之さんも35周年。サックスという楽器を世に知らしめたのは尚之さんの功績ではないかと思っています。また、全然変わってないなぁと思うのは気のせいでしょうか? フミヤさんから「尚之が話すとグダグダになる」とさっさと切り上げられる、ゆるいトーク。そして黒のスーツに黒シャツ、ベストは完全に反則でしょ。かっこよかったです!