今年も、1か月半になりました。空気がだんだんひんやりと変わっていく、本格的な冬の訪れを肌で感じる11月。私は個人的にこの季節がいちばん好きです。ぽーっとしていると駆け足で通り過ぎていく短い時季だからこそ、よけいに愛おしく感じるのかもしれません。
さて、今回は、来年デビュー30周年を迎える真心ブラザーズのことをご紹介したいと思います。9月に発売されたアルバム『INNER VOICE』のリリースを記念して、現在は『HOLD BACK THE TEARS』のツアーで全国を飛び回るYO-KINGと桜井秀俊さんのお二人。そして、面白いのは、バンド編成のツアーと並行して、二人が対マンするアコースティックライブが行われていること。何が起こるかわからない!? そんなワクワクする気持ちで、10月27日(土)大阪・吹田メイシアターで開催された『続・サシ食いねぇ!』に潜入してきました(笑)。約150席という小劇場で観る真心ブラザーズは格別。まだまだ続くこのツアー、曲や内容は伏せるとして、まずは先攻の桜井さんのステージ。ギタリストであり、ボーカリストでもある桜井さんの作る楽曲は、心の琴線に触れる美しいメロディーが多く、日ごろはKING(YO-KING / 以下、KING)が歌っている曲なども、桜井さんが歌うとガラリと雰囲気が変わるのが醍醐味。1曲1曲歌い終わるたびに起こる拍手に、「ありがとうー!」とご機嫌な桜井さん。味わい深いボーカルって言ったらいいのかな? とにかく私は桜井さんの歌が大好き。もともと、桜井さんのソロライブを観たことがきっかけで、真心ファンになったといっても過言ではないくらい。
それまで、真心ブラザーズのことは「どかーん」や「サマーヌード」は知っているという薄い認識だったけれど、ステージのセンターで、ギターを弾きながらニコニコと幸せそうに歌う桜井さんを見て、何だかわからないけど、幸せな気分を分けてもらったような気持ちになって、以来惹かれ続けています。もうすっかりいい大人だけど、桜井さんの渾身のラブソングは秀逸。“真心ブラザーズ”というジャンルが確立されているとすれば、桜井さんの曲はそこに、ぽっと、優しさや彩りを添えているような気がします。この日も、いい曲ができると、本音は俺が歌いたい! だけど、「“YO-KINGさん”が歌っちゃう」とぼやいてみたり、自信作が「(アルバムの曲の選考会議で)誰の口からもあがらなかった」、「俺の曲はパンチが足りない」と落ち込んでみたり。でも、こういう機会にしつこく歌っていつか陽の目を夢見る、ロマンティストでガッツのある桜井さんが可愛い。
後攻はKING。ソロを観るのは初めてだったからか、醸し出されるオーラと、歌い出すとさらに空気が変わる、KINGのカリスマ性に圧倒されました。「自分の声が大好き」と自画自賛するKINGの歌声は、ストレートに心に届いてきて、アコギやハープのシンプルな演奏を味方につけて、より一層存在感を放っている。MCでは、前日に髪を切ったという話から、前髪はいつも自分でカットするのだと言って、でもサイドの髪が伸びていて、金八になりそうだったって、武田鉄矢さんのモノマネが飛び出して大爆笑! え、KINGってそんな人だったの? って意外性にぐっときたりして。(そういえば、先日のカーリングシトーンズのステージでは、トータス松本さん(ウルフルズ)や奥田民生さんにつっこみを入れる、キレのいいKINGを観て、真心の立ち位置とは違う一面でとても面白い光景でした。)
昔からKINGの口ぐせは「俺はかっこいい」「俺ってモテる」だったけど、桜井派の私は、世の中的にはそうなんだって(確かにKING派は多かった)、半信半疑だったのです(笑)。でも、昨年初めて、それはKING自らが「いかに脳で自分をだますか」と言っていたのを知って深く腑に落ちたような気がしました。“事実はどうでもいいわけ、そういうふうに思い込めるかどうかっていう力なんだよ。それが人生を切り拓くわけ、楽しく”“(人に)言うことによって、さらにそれを俺がきいてるから。「あ、そうなんだ?」って、また自分に刷り込んでいくわけよね”(アルバム『FLOW ON THE CLOUD』インタビューより)。私は、20数年ずっと、KINGの術中にはまっていたことになるのだから、KINGの哲学には脱帽でした。そう言うことで、まずは自分が楽しみ、周りの反応を誰よりも楽しんでいるように思え、KINGは、いつも脳内のシミュレーションで数手先までを観ているような気さえするのです。
アルバム『INNER VOICE』とは、自分のココロの声。“みんなね、自分の心の声を聞かなすぎるんですよ。いくら情報がたくさんあっても、本当に大事なことは自分の中にあるんだから。例えば体に良いと言われる食べ物も、実際にそうなのか自分の心と体で判断することが重要で。自分を知ることが幸せへの一番の近道な気がしますね”(『INNER VOICE』のインタビューより)。KINGのように、自分が大好きで、自分軸で生きることができれば、きっとみんな幸せになれるのではないだろうか。KINGを観ながら、そんなことを考えていました。
ソロで二人の歌と個性を堪能したあとは、二人のステージ。桜井さんの遊び心に溢れたカラフルなギター、そして、キングのハープが高揚感を増し、会場はさらに盛り上がる。自由なKINGを、まるで母のようなまなざしで見守る桜井さん。MCでもKINGの発言は、決して宙に浮かせないし、しっかりと受け止める、まるで女房役みたいに。だけど、桜井さん曰く、最近は“YO-KINGさん”の物忘れに対して、自分がさっとフォローしなくちゃいけないところを、自分もすっと出てこなくなり、二人で「あれ」とか「それ」とか言い合うことが多くなってきたのだそう。いよいよ、Googleさんのお世話にならないといけなくなってきたかもと(笑)。二人の絶妙なトークは、いつもピンポイントにツボにはまり、涙を流すほど大笑いしてしまう。そして、真心ブラザーズの歌は、時代に迎合することも淘汰されることもなく、ただ我が道を行く。それは、決して誰もが真似できることではなくて、二人にしかできない、途轍もないほどかっこいいことだと思う。『続・サシ食いねぇ!』は12月まで。そして、来年の2月まで続く『HOLD BACK THE TEARS』ツアーは、ドラムの伊藤大地さんとベースの岡部晴彦さんとの4人編成で、ガラリと選曲なども変わってくるのだから見逃せません。真心ブラザーズのライブに溢れる充足感。こんな豊かな時間を、ぜひみなさんにも味わって、体感してほしいと思っています。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。昨日は、京都ロームシアターで行われた北島三郎さんのコンサートを観に行かせていただきました。馬主で知られる北島さんの愛馬・キタサンブラックが好きだったので、競馬場でよく聴いていた「祭り」をステージで聴くことができて感激しました。1階から4階まで埋め尽くすファンの方の熱量と、北島さんの凄さに圧倒されたステージでした。