皆様ごきげんよう、イシハラです。
 
手元の温度計によると、現在は36度とのことで、ジャスト人肌。そう……人の体温ならば。でも外気温となれば話は別。身を焦がすような灼熱地獄でございます。全国各地のロックンローラーの皆様、革ジャン着用の際は熱中症にお気を付けくださいませ。
 
ところで先月、ライターになってからの4年間で出逢った人は皆、〈逃れられない愛しい何か〉に囚われていると書きました。彼らは皆、クレイジーで、アクが強くて、愛にあふれた曲者ばかり。だけど皆、自分の信じた表現にはまっすぐで、揺るぎない信念を持っている。そんな魅力的な友人たちを紹介したくて前回は、遠井リナ氏という絵描きのモダンガールへ恋文をしたためました。
 
そして今回も、私が愛してやまない表現者をひとり、紹介したいと思います。
音楽とお洋服をこよなく愛す、仕立て屋さんのお話。先日開催された個展の模様や彼女の言葉を交えつつ、表現の世界を紐解きます。
 
 
 
■創作系乙女奇譚~ナツミホシ之巻~
 
ある時はステージ衣装やオーダーメイドのお洋服を作る仕立て屋さん、そしてある時はライブハウスのスタッフ、またある時はライブ写真を撮るカメラマン……と、色とりどりの才能を発揮する女性が、今回の主役・ナツミホシ。去る7月8日、池袋 Roobik Houseにて、彼女の多岐に渡る活動が凝縮された個展〈ナツミホシ衣装展 ユートピア〉が開催された。
 
 
①YUMECO201807

ナツミホシ自ら描いたフライヤー。彼女ゆかりの作品たちが紛れ込んでいる

 
 
会場内にはナツミホシの洋服作品や、デザイン画、服飾にまつわる愛蔵書などが所狭しと展示されており、いずれも自由に試着や閲覧ができる。また、気に入った洋服作品はセミオーダーも可能となっており、鏡の前には彼女の洋服を試す女性たちで終始大賑わいだった。
 
 
②YUMECO201807

「ナツミホシ衣装展 ユートピア」より

 
 
私が初めて袖を通した彼女の作品は、このコラムの一番下にあるプロフィールやツイッターアイコンの写真で着用しているワンピース。〈おばあちゃんのクローゼット〉というテーマの作品集を発表した際に、3着ほどモデルをさせてもらったのだ。どれもレトロで女性らしいキュートなデザインにも関わらず、洋服たちから感じたのは強い信念と表現者としての業。思いの丈をぶつけてみると、彼女はこんな風に答えてくれた。
 
「わたしは服に様々なものを預けてきました。憧れや暖かい気持ちもそうですが、どちらかといえばネガティヴな部分。嫉妬だとか、承認欲求、自己顕示欲、劣等感や寂しさ、余分なプライド。それらを持って毎日を過ごすには苦しくて、かといって捨てることも無理に抑えつけることは嫌。そういったものを含めの自分であるために、形を変え、服に化かして纏うことで、それらの感情もみんなで一緒に〈ホシナツミ〉を形成しています」
 
そして今回の個展開催にあたり、私は再び彼女の洋服のモデルを務めることになったのである。
 
 
③YUMECO201807

「ナツミホシ衣装展 ユートピア」より。作品名「群衆」。一番左がイシハラ。作品内写真:ナツミホシ

 
 
これは当日会場に置かれた彼女の作品カタログの写真。作品のタイトルと物語が直筆で添えられている。私然り、7テーマ、計10着の衣装を纏った被写体にプロのモデルはいなかった。そして自分自身に送る作品は、彼女が自ら纏う。このモデル選定についてもやはり、彼女なりの美学があった。
 
「その人の作り出すものや美学を含めて、その作品の性格と一致している人にお願いしています。そして、一致とはいえど、歩み寄ることは必要不可欠なので、服はモデルを決めてから完成させます。計ってピタリになる身体や、顔だけでなくて、その人、生物そのものをお借りしているつもりです。
 
魅力的なクリエイターの皆様にお願いする他に、わたしへ贈る3作品、はわたし自身が務めました」
 
 
④YUMECO201807

「ナツミホシ衣装展 ユートピア」より。作品名「壁画」。モデル:ナツミホシ

 
 
発言にもあるように、モデルを務めたのはミュージシャンや、イラストレーターなど私含め、皆何かしらの表現者。だからこそ、単なる被写体ではなく共鳴するものがあって彼女の服を纏っているのだと思う。私自身も彼女と共鳴する部分は多い。そのひとつが、音楽との関わり方で、お互い自分が軸とする表現と音楽が密接な関係にあるのだ。
 
彼女は自らを「ライブハウスに潜む仕立て屋」と称す。音楽は音楽でも、ライブハウスの音楽なのである。ここもまた、共鳴するポイントだった。言うなれば、彼女も私も現場主義なのだと思う。そして驚いたのが、次の言葉だった。それは私自身が物書きとして音楽と関わるスタンスと、とても良く似ていたのだ。
 
「境界線や固定概念は無いとも考えますが、やはり、各種業界の〈国〉があります。少しずつ、捉え方だとか、見ているものは異なる。わたしは服を作る〈服の国の人〉であるけれど、自分で思うに、ものつくりの在り方は〈音楽の国の人〉の方が近いと感じるし、ワクワクして、やってみたいことも溢れていて、居心地が良い。もちろん自分の国が大好きだからこそ双方の良さがわかる。
 
また、なにかを作る人である以前に、真っ直ぐに大好きな場所であるライブハウス。服の国に移住する音楽の国の人も居て、それもまたとても素敵でワクワクすることだと思いますが、わたしの場合は服の世界の人としてライブハウスに移住、潜み、大好きなライブハウスの人たちが必要な時に、ライブハウスが大好きな仕立て屋だからこそ出来る形で、自分の国である服と、移住先である音楽とを繋ぎたいのです」
 
 
⑤YUMECO201807

「ナツミホシ衣装展 ユートピア」より。夕方からはミニライブも。左:ベースも弾きこなすナツミホシ。

 
 
彼女は服、私は文章。表現方法は異なれど、自らの領分と音楽を以て、カルチャーを縦横無尽に渡り歩いて行けたら……そう願ってやまない1日だった。お互い、気が多くてついつい何足もの草鞋を履いてしまうけれど、驚くほど芯はブレなくて。単純な似た者同士、ではないのだけれど、間違いなく同士だと信じている。泥臭く、美しく音楽と自らの表現を突き詰めてゆく所存。
 
  
▼ナツミホシ
ライブハウスに潜む仕立て屋。装いは鎧。
衣装・オーダメイドのお洋服のお仕立てと、呼吸としての服創り。
▶池袋admスタッフ。
▶文化Ⅱ部卒。
 
http://dlyleeeeeeek.tumblr.com
 
 
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.2 ― THE TOMBOYS「Tell Me Why」


 

 
今回は衣装に特徴のあるバンドを、と思いTHE TOMBOYSの「Tell Me Why」をエンディングテーマに選びました。60年代CAを彷彿とさせる帽子とワンピースに、真っ赤な靴下、そしてドクターマーチンがトレードマークの彼女たち。「Tell Me Why」が収録されたアルバムは、Glen Matlock(SEX PISTOLS)プロデュースで、英国でレコーディングされたという驚愕のエピソードを持つ。その後も英国と日本を股にかけての活動は、国内外から注目を集めている。ヒラリ、フワリ、と軽やかに踊るサウンドはまさにハッピーロックンロール。やはり衣装のあるバンドって良いですよね。
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。ホシさんとの思い出は多々あるのですが、やはり一番は思いっきりお洒落をして新宿ゴールデン街に行ったこと、かな。その時に彼女が着ていたコートが可愛くて一目惚れしていたのですが、個展にて試着できました。……やっぱり欲しい!