■若竹千佐子著『おらおらでひとりいぐも』 河出書房新社


 
9784309026374
 
 
本年度芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』は、74歳の「桃子さん」が主人公。子供は手を離れ、夫には先立たれ、ペットの犬も死に、本当に「おひとり様」となった今、たくさんの内心の声が聞こえてくるように。故郷の東北弁、上京してから使うようになった標準語。それらが入り乱れて勝手に会話を展開する桃子さんの脳内の会話劇が中心な物語となっています。
 
作者である若竹さんは、大学卒業後、27歳で結婚してからはずっと専業主婦。小さい頃から「いつか小説家になりたい」と思っていたそうです。ところが55歳のときに夫が急死。深い悲しみから立ち直れずにいるのを見た長男の勧めで小説家養成講座に通い8年の月日をかけて描かかれたそうです。
 
特筆すべきは、主人公の脳内描写がとても活き活きと躍動感があること。桃子さんの想像力の翼は果てしなく拡げられていきます。
 
死んでしまった夫への愛について、考えている場面を引用します。
 
 
 

聴いでけれ、耳をかっぽじってよぐ聴いでけれ
でいじなのは愛よりも自由だ、自立だ。
いいかげんに愛にひざまずくねは止めねばわがね
んだ。愛を美化したらわがねのだ。
すぐにからめとられる
一に自由。三、四がなくて五に愛だ。
んで、二は改めて言うまでもねべ。


 
 
 
自分は、ずっと夫に尽くしてきたけれどひとりになった今、感じる愛は違う。女も自立して生きていかねばと思うようになるのです。
 
子どもが巣立ってしまい、夫に先立たれたら、さぞ悲しい孤独な日々を過ごしているだろうと思ってしまいますが、桃子さんの溢れる想像力、否妄想力が爆発していてちっとも淋しくないのです。東北弁と標準語を効果的に使い分けた若竹さんの表現力に感服するばかりです。
 
久々に心震える、小説に出会いました。老いてからの女性の生き方をこれほど見事に描いた作品は他にはないと思います。
 
若竹さんの今後の作品が楽しみです。次回作でも素晴らしい東北弁の文章たちにして頂けたら、声に出しながら読んで楽しみたいです。
 
 
 
IMG_1861
南あわじにも春が来ました。名物のしだれ梅をみな楽しみにしています。

 
 
 


 
uemura上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。