“夢”という言葉が嫌いだった。
夢と呼んでしまえば最後、叶わぬものになってしまいそうだったから。
そんな風に呼んで浮かれたくもなかったし、揶揄されたくもなかった。
 
都合の良い言葉だと思った。
「夢があるね」なんて台詞は馬鹿にするときの常套句で。
夢を語れば面白味のある人間のフリだって出来た。
 
だけど本気で何かを手に入れようと、叶えようとしたら、まず立ち向かうのは現実だ。
そしてその現実との戦いは、想像以上に地味で無様で果てしない。
しがみつくのがやっとだった。
 
なのに、そんな状況でも曇らずに自らの夢を守り、誰かの夢であり続ける存在。
 
それがロックンロールバンドだった。
だから私は決めたんだ。
彼らが死に物狂いで夢を見せてくれる限り、夢を見続けようって。
 
 
 
■DIYロックンロールでO-WEST!~The Doggy Paddle『Kinema Rock’n’Roll』インタヴュー


 
① artist cut 2017
左から 村田 慎太郎(Ba)中村 虎太朗(Dr)恵守 佑太(Vo / Gt)横道 孟(Gt)

Photo by Otowa Nishimura

 
 
 
当連載にて毎年インタヴューを敢行し、その動向を追っているロックンロールバンド・The Doggy Paddle(ザ・ドギーパドル)。彼らの最大の特徴は事務所やレーベルに所属せず、楽曲制作は当然のことながら、各種アートワークまでもメンバーが手掛けるDIY精神に則った活動スタイルだ。(詳細は前回のインタヴューにて)彼らは2月7日にバンド初のフルアルバム『Kinema Rock’n’Roll』を発売し、そのツアーファイナルとなるワンマン公演を5月16日にO-WESTで開催することを発表した。会場規模を一気に拡大して挑む背景には、バンドの10周年とDIYで活動することへの誇り、そして共にライヴハウスを主戦場とする仲間たちへの想いがある。バンド結成10周年にして戌年。控えめに言っても運命的なこのアニバーサリーイヤー。彼らはどんなドラマを見せてくれるのか。メンバー全員に思いの丈を語ってもらった。全てのバンドマンと夢追い人、そしてロックンロールを愛する人へ。
 
 
 

「キネマ・ロックンロール」はバンドマンの曲であり、アルバムの物語たちを総括する曲(恵守)


 
――結成10年目にして初のフルアルバムが発売されました。リリースが活発なバンドだけにフルアルバムを心待ちにしていた方も多いと思います。
 
恵守 佑太(Vo / Gt)「10年目という節目の年なので、ぶちかまそうぜ、と」
 
――『Kinema Rock’n’Roll』というタイトルに相応しく、1曲1曲にストーリーがあって、オムニバス映画を観ているような感覚でした。王道のロックンロールからミドルナンバー、バラードと曲調も多彩で、フルアルバムならではの聴き応えがありますね。
 
恵守「ありがとうございます。今回はアルバムでひとつの景色を見せるというよりは、曲ごとが独立しているんですよね。それこそ1曲ずつが映画じゃないですけど、別々の物語があって」
 
――ラストナンバーはアルバムタイトルと同じ〈キネマ・ロックンロール〉という曲ですが、この歌詞はバンドマンや夢を追う人にとっては胸に沁みるものがあると思います。
 
恵守「そうですね、これはバンドマンの曲です。だけどアルバムの物語たちを総括する曲でもあって。アルバムの『Kinema Rock’n’Roll』というタイトルは、1曲1曲が映画のような物語であるというのと、〈キネマ・ロックンロール〉という曲の存在。このふたつの意味から付けました」
 
 
 

ジャケットや手触り、CDを買いに行くまでの過程も含めて音楽だと思う(恵守)


 
――アルバムに先駆けて〈アイボリー〉と〈あなたに届け〉の2曲が発売されていますが、いずれもカセットテープでのリリース。なぜ今カセットテープという形態を選んだのでしょうか。
 
恵守「単純にドギーパドルに合ってるな、と。どうしても配信とかストリーミングが主流になっていると思いますが、やっぱり自分たちは物質的なものを大事にしていて。確かに音楽は聴ければ良いんですけど、ジャケットだったり手触りだったり、もっと言えばCDを買いに行くまでの過程とかも含めて音楽だと思うから。それなら敢えてCDよりもさらに遡った形態でリリースしてみようという、ひとつのチャレンジでした」
 
横道 孟(Gt)「新しい物ってすごく便利だし、なくなったら困る。だけど流行じゃないのに残ったものっていうのは、そうまでして残る意味があるというか……。それが俺たちにとってのカセットなんですよね。自分でも最近カセットを買って聴いているんですけど……良いんですよ。音も空気を含んでいる感じがしてちょっと違う。別の部屋で聴いたら違う音で聴こえそう、みたいな」
 
村田 慎太郎(Ba)「あと、手間が良いんですよね。レコードもそうですけど。ひっくり返さなきゃいけなかったりとか。もちろん簡単な方が良いこともあるんですけど、ケースから出してその都度ひっくり返して聴いて……っていう手間が面白くて」
 
恵守「劣化とかも含めてすごく好きだな、と。僕はジーパンも好きなんですけど、ジーパンも(履いているうちに)色落ちしたりその人の体形に合っていって、その人だけのジーパンになるじゃないですか。カセットもお気に入りの曲ばっかり聴いていたらそこだけ伸びちゃうし。それは聴いていてストレスになるかもしれないですけど、聴いた跡が残っているということだから、すごく好きだし良いなって思いますね」
 
――カセットテープには、ダウンロードカードをつけて販売しているんですよね。それを利用すればカセットの再生環境がなくても曲を楽しめる、と。
 
恵守「そうなんです。古いものが好き、というのが自分の中に大前提としてあって。でもオールドスクールだけじゃなくて今聴かれている、聴いてもらえる音楽というか……。新しいところはちゃんと突き詰めていきたいんですよね。これはバンド結成当時から根本にあることで。それに俺は便利になっていくこと自体は良いと思うんですよね、そうじゃなかったら聴かれないものも絶対あると思うし」
 
 
 

今までドギーパドルを知らなかった人にも届いている感触があった(村田)


 
――そうですね。ダウンロードカードに加え〈あなたに届け〉はカセットテープでのリリース後、YouTubeでMVを公開しています。これには大きな反響があったそうですね。
 
 

 
 
恵守「我々はメジャーデビューもしていないし、事務所にも所属していないDIYバンドだから、YouTubeなどで助かっている部分も絶対あって。ライヴハウスに来てくれないと本来聴けないものが、ああやって自宅のパソコンとか電車の中でも聴ける。そのおかげであんなに知ってもらえたなら、それは良いことだと思うんです」
 
――“あなたに届け”と言い放つストレートな歌詞と、ドギーパドルらしいキレのあるロックサウンド。そして一度聴いたら忘れないキャッチーなメロディーが多くの人の心を掴んだのだと思います。
 
村田「Twitterを見ていても、今までドギーパドルを知らなかった人にも届いているという感触はありました」
 
中村 虎太朗(Dr)「あとYouTubeのチャンネル登録がたくさん来たんですよね。純粋にロックンロールを好きな人がYouTubeをディグって〈あなたに届け〉を見つけて登録してくれたかと思うと嬉しかったです。言霊ですよね。“届け”って思ったから、音に乗っかって皆にすっと入り込んでいったんじゃないかな、と僕は思います」
 
 
 

“君たちWESTでやりたまえ”と大人が言うのを待つより、それも自分たちでやってしまおう(恵守)


 
――そして『Kinema Rock’n’Roll』を引っ提げてまわるツアーのファイナルは、TSUTAYA O-WESTです。バンド史上最大のキャパシティーとなる会場でのワンマン公演となりますが、なぜこのような挑戦に至ったのか。経緯を聴かせてください。
 
 

△The Doggy Paddle「エデンの西」(TSUTAYA O-WESTワンマンテーマソング)
 
 
中村「一昨年、下北沢のDaisy barでワンマンをやったときに、すごく良い景色だなっていうのと同時に“俺らもっとできるな”って感じて。それで“俺達いつまでここにいるんだろう”と思ったんですよね」
 
――それにしてもDaisy barとO-WESTでは4倍以上キャパシティーの差があります。もう少し段階を踏んでから、という選択肢もあると思いますが。
 
恵守「正直未知の領域すぎて、その話が出たときには恐怖しかなかったし“やろうよ”って言われても“やれるのか?”と思いました。でも俺と横道でバンドをやり始めてから10年経つんですけど、自分たちが描いていた理想の現在地で言うならば今、O-WEST ぐらいでやってないと違うな、と。だからそこに帳尻を合わせるじゃないですけど、10周年でO-WEST のステージに立つ、というのは絶対にやりたかったんです。でも帳尻を合わそうと決めたので、今は逆にO-WESTも踏み台にしてやろうと思っているんですよね」
 
中村「事務所についてないとデカいところで出来ないのかって言ったら絶対そんなことはないんですよ」
 
恵守「そう。いつもDIYっていうのを推し出して活動している中で、どうやったら上に行くのかっていうビジョン的なものがなかったかもしれないな、と。今までは目の前にあることを全部自分達でやっていたけど、じゃあその後どうするのかっていう展望がなかったんです。でもそれを考えたとき“君たちWESTでやりたまえ”って大人が言うのを待つよりは、それも自分たちでやってしまおう、と」
 
 
 

ロックバンドなら夢を見させてナンボだと思う(中村)


 
――まさにDo It Yourselfですね。そしてO-WESTのチケットが売れた分だけリターンを公開する“101Challenge!”という企画も面白かったです。新曲を公開したり、イベントを開催したりと、ライヴまでの過程も楽しもう、というスタンスがドギーパドルらしいなと。
 
恵守「O-WESTに辿り着くまでの道中も楽しみたいんですよね。旅行とかも飛行機の中とかがめっちゃ楽しいから」
 
中村「最初はクラウドファンディングを利用して何かやろう、という話もあったんですけど“らしく”ないなと思って(笑)。それでクラウドファンディングのシステムをお金じゃなくてチケットに変えてやってみたら皆ハッピーじゃないかな、と」
 
――なるほど!
 
横道「無茶な挑戦をしてるように見えるかもしれないけど、俺らは結構楽しんでるんですよ」
 
――クラウドファンディングもそうですが、YouTubeやサブスクリプションなどの発達でバンド活動も時代とともに変わってゆくと考えられます。だからこそ、DIYで10年続けたバンドがO-WESTでワンマンライヴをするという事実は、とても意味のあることだと思います。
 
中村「僕の中でO-WEST って、もうひとつのテーマがあって。ロックバンドが元気がなさすぎるんですよ、今。本当に元気がなくて……すごく保守的なんですよね。無理して大きな会場でライヴをすることに対して否定的な意見もあるかも知れないけど、僕はロックバンドなら夢を見させてナンボだと思うんですよね。だから普段俺らと同じくらいでやってるバンドマンにも、もっと元気を出してほしい。俺らは事務所に所属してなくてあんまり売れてないバンドかもしれないけどO-WESTでやるんだよ?なにそんなしょげてるの?っていう姿を仲間に見せたいですね」
 
恵守「そうだね。〈あなたに届け〉を収録したカセットってコンピレーションなんですけど、そこに集まったバンドは全員無所属のバンドなんです。つまりドギーパドルと同じ土俵で戦っているバンド。自分たちは彼らが今世に出ているバンドに対して劣ってるとか足りないと思う事は全然なくて。むしろもっとカッコいいって思ってる。だからもっと多くの人に聴いてもらいたいという思いもあってコンピを作ったんです。O-WEST も売れたバンドがやる場所じゃなくて、俺たちの土俵のバンドでもできるんだってことを見せたい。だからどんどん後に続いて欲しいんですよね」
 
 
 

O-WEST は現時点での俺らの挑戦であって、ずっと先の自分達にとっては通過点(横道)


 
――改めて5月16日O-WEST、どんな日にしたいですか。
 
中村「まあこんな感じで俺らは俺らで楽しんでやってます。それに乗っかってみんなも楽しんでもらえれば一番いいかなって思います」
 
村田「〈キネマ・ロックンロール〉というメッセージ性の強い曲ができて、それがアルバムのタイトルにもなって。そのツアーファイナルでO-WESTというのは本当になるべくしてなったものだと思います。……俺たちがしたんですけどね(笑)。運命的な日になると思っています。ライヴを観てくれたお客さんと一緒に感動したいな、と思いますね」
 
横道「2018年戌年。O-WEST は確かに挑戦なんですけど、それは現時点での俺らの挑戦であって、ずっと先の自分達にとっては通過点だから。俺たちO-WEST以外にもやりたいことがいっぱい溢れ出してるんですよね。だって、一生楽しみたいじゃん?終わらないから、ずっと観続けてほしいです」
 
恵守「10年前に俺と横道で始めて、こうやって今この2人を加えてドギーパドルとして10年目を迎えられて本当によかったな、と。そして『Kinema Rock’n’Roll』というアルバムを出して、O-WEST を迎えるわけですけど、横道が言ってたとおり、やっぱりそこが終着点ではなくて。〈キネマ・ロックンロール〉の歌詞じゃないですけど、バンド人生色々あるとしたらまだ最初の盛り上がり所だなと思うので。映画は後で何回も観られるかもしれないけど、俺達の最初のO-WESTは一回きりなので、ぜひそれを皆に観に来てほしいなと思います。まだまだ楽しいことは続くので、楽しみにしていてください」
 
 
 

赤い血を鳴らせロックンロールバンド
牙を捥がれても
幕の上がり切らぬ劇場で
ブチ抜くのさブレーキをロックンロールで

歌を歌うだけロックンロールバンド
朝が来なくても
バクの歩き回る劇場で
かき鳴らせよロックンロールを

墓石を叩けロックンロールバンド
朝はすぐそこに
幕の上がり切らぬ劇場で
演じるのさ 夢 希望 ロックンロールで

The Doggy Paddle「キネマ・ロックンロール」より


 
 
▽The Doggy Paddle
公式HP  http://thedoggypaddle.jp/
Twitter  https://twitter.com/TheDoggyPaddle
 
 
 
▽リリース情報
②jhk-1024x1014
1st Full Album『Kinema Rock ‘n’ Roll』¥2,800(税込)

2018年2月7日(水)発売

 

1.black bunny sweet girl
2.エレジーは夕闇に鳴る
3.グッドメロディ
4.Weak anthem
5.ユーフォルビア
6.ガーベラ
7.ノイローゼ
8.アイボリー(Remastering)
9.エレクトリック・シープドッグ
10.Bandit!
11.あなたに届け(Remastering)
12.no title
13.キネマ・ロックンロール

 
 
 
▽ライヴ情報
Hound A Round 5『Kinema Rock’n’Roll Release Party』
2月11日(日) 下北沢Daisy Bar
The Doggy Paddle / Large House Satisfaction / Walkings
 
CinDo×CenDo vol.20
2月24日(土) 稲毛K’sDream
The Doggy Paddle / ANABANTFULLS / Outside dandy / The cold tommy / GRAND FAMILY ORCHESTRA
 
NANOSCALE 1st mini album release party【激奏!!トマランナー】
2月26日(月)吉祥寺Planet K
The Doggy Paddle / NANOSCALE / Manhole New World / Sams / トラツグミ / +1band
nbsp;
夜のばけもの vol.1
3月4日(日)渋谷club乙
The Doggy Paddle / GiMMiC KNOTE / results in cert / The quilt / 萌香(ジャンプザライツ)
 
​The Doggy Paddle ONEMAN『エデンの西』
5月16日(水)渋谷 TSUTAYA O-WEST
 
 
ほか、詳しくはWebサイトのライヴ情報をご確認ください。
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.11 ― EGO-WRAPPIN’ 「Neon Sign Stomp」


 

 
キネマ、と言えばエゴラッピン。キネマ倶楽部の常連なのも然ることながら“キネマ”という言葉の持つ佇まいが、彼らの音楽やスタイルにとても良く似合うから。ロックンロールとハードボイルドに目覚めた10代の頃、夢中になったドラマがあった。それは「私立探偵 濱マイク」。横浜のアンダーグランドを舞台にした永瀬正敏氏主演のハードボイルド探偵ドラマだ。その主題歌だったのがエゴラッピンの「くちばしにチェリー」。場末の艶っぽさと、ジャズとも歌謡曲とも呼べる小粋なサウンドにあっという間に虜になった。それから10数年。今度は愛してやまない俳優・オダギリジョー氏とエゴラッピンがタッグを組んだ。それもまたハードボイルド探偵ドラマで!その主題歌がこの「Neon Sign Stomp」というワケだ。場末のブルース×探偵事務所、そして歌川国芳。私の好きな要素がこのMVに全部ある。
 
 
 
 


 
ishihara_2017イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。ハードボイルド小説はやっぱり、かの有名な『新宿鮫』シリーズでお馴染みの大沢在昌氏の著作が好き。あとはチャンドラー。浅野忠信氏と綾野剛氏の『ロング・グッドバイ』もまた良し。男も女も、私はちゃんと格好つける時に格好つけられる人が好きです。