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どうも、今年もまた暗闇の中からこんにちは。
 
2017年も、面白い映画がたくさんありました。調子に乗って観ていたら、家の外で観た映画188本、家の中でもDVDやら配信やらで観ているので、全部合わせたら200本は悠に超えるものと思われ……NetflixとHuluとAmazonに入っているので、海外の配信ドラマも、いろいろチェキしたり(『ストレンジャー・シングス』シーズン2が最高だった!)。ということで、それら諸々の中から、今年は敢えて順位をつけて「ベスト10」を選んでみたので、以下紹介させていただきます。
 
 

1.『ノクターナル・アニマルズ』
2.『20センチュリー・ウーマン』
3.『ブレードランナー 2049』
4.『ゲット・アウト』
5.『T2 トレインスポッティング』
6.『ラ・ラ・ランド』
7.『ムーンライト』
8.『女神の見えざる手』
9.『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』
10.『笑う故郷』

 
 
 
1.『ノクターナル・アニマルズ』(監督:トム・フォード)


かつてグッチのクリエイティブ・ディレクターを務めていたことでも知られる世界的なデザイナー、トム・フォードの長編第二作。これは本当にすごい映画でした。セレブな生活を送る女性のもとに、ある日突然届けられた『夜の獣たち』と題された小説。その送り主であり書き手である人物は、彼女が過去に手ひどい別れ方をした、かつての夫だった……というミステリアスな導入から、小説世界と現実世界が入り混じった、実に奇妙な物語が展開していきます。作家オースティン・ライトの原作小説が持つ強度もさることながら、その小説に自身の半生を仮託したかのようにも思えるトム・フォードの積年の思いが、とにかくすさまじい一本でした。テキサスの田舎町とセレブな都会、そしてセクシュアリティ。画面の隅々まで張り巡らされた美学的なこだわりはもとより、映画としての“強度”が、とにかく強烈な一本として、非常に心に残りました。観終わったあと、しばらく椅子から立ち上がれなかったもんな。ある意味、ノワール版『ラ・ラ・ランド』とも言える一本です。
 
 
 
2.『20センチュリー・ウーマン』(監督:マイク・ミルズ)


前作『人生はビギナーズ』で、自身の父親との関係性を描いたマイク・ミルズが、今度は母と過ごした少年時代を描いた一本。1979年、カリフォルニア州、サンタバーバラ。大きく変わろうとしている時代の中、幼き主人公は、シングルマザーの母親(アネット・ベニング)、近所に住む年上の女の子(エル・ファニング)、下宿人の女性(グレタ・ガーウィグ)という、三者三様にその生き方を思いあぐねる女性たちに囲まれながら、多感な思春期のひと夏を過ごします。とにかく、俳優たちのアンサンブルが素晴らしかったです。トランプ大統領の就任によって、人種や性別など、さまざまな“違い”による対立が顕在化したアメリカ。そこで大事なのは、この映画に描かれているような、誰かの言葉に“耳を傾ける”姿勢、自分とは違う誰かを“理解しよう”とする姿勢なのかもしれません。あらゆる意味で、とても“やさしい”映画です。本作については、別の場所に割としっかり書いたので、そちらも是非
 
 
 
3.『ブレードランナー 2049』(監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)


2017年は、ある意味ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の一年でした。ネビュラ賞を受賞したテッド・チャンの短編SF小説を、秀逸な映画体験へと昇華させた『メッセージ』。そして、リドリー・スコットの名作『ブレードランナー』の35年ぶりの続編にあたる『ブレードランナー 2049』。巷では、異文化への接触、そして母なる者への深遠な哲学を内包した前者のほうが評判良いようですが(確かに素晴らしい映画です)、個人的には後者に一票を。ほとんどカルト化した人気を誇る前作の完璧な続編であることはもちろん、精緻に作り込まれた世界観、そして当代随一の名手ロジャー・ディーキンスによる、これまで見たことのない衝撃的な映像体験によって、フィリップ・K・ディックが生み出した“ブレードランナー”の世界そのものをアップグレードしてしまったかのようにすら思える本作は、まさしく眼福の一本と言えるでしょう。とりわけ秀逸なのは、そのラスト。いわゆる“セカイ系”の対極にあるとも言えるその痛切なラストには、滂沱の涙を禁じ得ませんでした。そう、これは、何者でもない“ぼくたち/わたしたち”の映画だったのです。
 
 
 
4.『ゲット・アウト』(監督:ジョーダン・ピール)


2017年のアメリカを代表するのは、やはりこの映画なのだと思います。コメディアンとして知られるジョーダン・ピールが、初の長編映画として監督した『ゲット・アウト』。彼女(彼氏)の実家に初めてあいさつに行くのって、あらゆる意味でドキドキだよね……という、割と普遍的にも思えるシチュエイションを、黒人男性と白人女性という異人種カップルに置き換えてみたところ、思わぬ展開になってしまった……みたいな話なのですが、中盤以降のホラー展開の中で浮き彫りとなる、“リベラルに内在する倒錯した差別感情”は、身の毛も凍る恐ろしさがありました。それにしても、ケンドリック・ラマ―やチャンス・ザ・ラッパーといったミュージシャンはもちろん、さまざまな領域における、センスと教養のある黒人クリエイターの活躍は、近年本当に目覚ましいものがあります。その中でも、個人的にいちばん注目しているのは、チャイルディッシュ・ガンビーノ名義で秀逸な音楽を生み出す一方、監督・役者としても才気走った活躍を見せるドナルド・グローバー。彼が生み出したテレビ・シリーズ『アトランタ』は、ある意味必見の一本だと思います。
 
 
 
5.『T2 トレインスポッティング』(監督:ダニー・ボイル)


こちらも驚きの一本でした。日本のサブカル筋でも一大ブームとなった映画『トレインスポッティング』が、20年の時を経て、まさかのリユニオン。しかも、オリジナル版の監督、出演者が勢ぞろいしているという驚き。良くも悪くも、きっちりと20年分歳をとった主人公たちの姿に感動を禁じ得ません。というか20年経っても、誰一人としてロクなことになっていない事実に、何だかものすごく感動してしまいました(微笑)。「あれから僕たちは、何かを信じてこれたかなぁ」……思わず「夜空ノムコウ」の一節を口ずさみそうになったりもしますが、案外気分は晴れやかだったりもします。果たしてこの映画を、今の若い人たちは、どんなふうに観るんだろう? そう思ったりもしないでもないけれど、ぶっちゃけそれは、どうでもいいかな。生きているといろいろ面白いことがあるものです。こちらの映画についても、別の場所で割と長めの文章を書いたので、よろしければそちらをご参照くださいませ
 
 
 
ということで、6位以下はザザッと。『ラ・ラ・ランド』と『ムーンライト』は、アカデミー賞受賞作なので、“鮮度”という意味では、どうしても落ちてしまうけど、やはり2017年に欠くことのできない映画だったと思います。公開後、思わぬ賛否両論に正直戸惑いを覚えた『ラ・ラ・ランド』ですが、最後のパートは丸々全部“夢”だったという解釈ではダメですか? そうですか。そして、事前の予想を裏切り、物語として抜群に面白かったのが、ジェシカ・チャスティン主演の『女神の見えざる手』。いわゆる“ロビイスト”の話なのですが、相手を出し抜くためには手段を選ばない主人公の豪傑ぶりがすごいです。この映画が、シャーリーズ・セロン主演の『アトミック・ブロンド』と同日に公開されたのも、非常に興味深い偶然です。両者とも、抜群にカッコ良かった! ジェシカの次回作『モリーズ・ゲーム』も楽しみです。
 
ジャン=マルク・ヴァレ監督の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』も、すごく印象深い映画でした。ぶっちゃけ内容的には、西川美和監督の『永い言い訳』と非常に近いものがあるというか、「ある日突然妻を亡くしたにもかかわらず、まったく涙が出なかった夫の話」というところまでは共通しているのですが、その後の展開が激しく違うんです。原題は「デモリッション(破壊)」というのですが、その名の通り、残された旦那が物を破壊しながら、人としても壊れていくんです(驚)。しかし、何かを始めるには、今あるものを徹底的に壊さなければならないというのは、ある意味真理かも……と思ったり。個人的には、『永い言い訳』よりも、ずっと好きな一本でした。ちなみに、ジャン=マルク・ヴァレは今年、HBOのテレビドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』(全7話)を撮っているのですが、リース・ウィザースプーンとニコール・キッドマンという二大女優を中心に、女性たちの対立と緩やかな連帯をミステリ仕立てて描いたこのドラマは、2017年の最重要ドラマのひとつ(エミー賞8部門受賞)なので、是非ともご覧あれ。僕も大好きなドラマです。
 
そして、最後10位に選んだ『笑う故郷』は、アルゼンチンの映画になります。ノーベル文学賞を受賞した作家が、名誉市民の賞を受賞するため、何十年ぶりに訪れた故郷での顛末を描いた本作。とにかく、ブラックなユーモアが秀逸で、途中ミステリーになったりホラーになったり、相当楽しく鑑賞いたしました。短館上映、ソフト未発売につき、あまり多くの人に観られてなくて非常に残念なので、敢えてここにリストアップしておきます。
 
その他にも、NASAのマーキュリー計画の陰の立役者であった黒人女性たちの知られざる活躍を描いた『ドリーム』、今年の映画ではありませんが、今は亡きヤスミン・アフマドの愛すべき音楽映画『タレンタイム』、さらに挙げるならば、ヘイリー・スタインフェルドがとにかくキュートだった『スウィート17モンスター』、フランスの新鋭、アルチュール・アラリ監督の初長編『汚れたダイヤモンド』、『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督が完全復活した『gifted/ギフテッド』、黒沢清監督の『散歩する侵略者』、そしてスルーしてる場合じゃなかった!瀬々敬久監督の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』など、秀作ぞろいだった2017年。それに加えて、本稿では挙げませんでしたが、Netflixのオリジナル作品の圧倒的な充実度など、マジで「殺す気か!」ってぐらいに、現在映像作品は、諸々激烈な進化のときを迎えているように思います。や、ホントに。
 
 
 
 


 
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