じめじめと、思い悩むは、常日頃。
せめて、空くらいはカラッと晴れていただきたいものです。
とは言え、まだまだ梅雨の真っ盛り。
今回はそんな梅雨の晴れ間に出会った、太陽みたいなロックスターのことを。
■王者の道をゆくこと~J 20th Anniversary Live を観た~
6月25日、EX THEATER ROPPONGIで目撃したJの20周年記念ライヴ。想像以上にフィジカルな熱狂に、スタンダードであることの強さを目の当たりにした。“王道”という言葉が形になったようなステージだった。
ライターを始めて、良かったことはたくさんある。好きな音楽を広める手助けができたり、楽曲が生まれた背景を知る事ができたり……書いたものに対して感想をもらえることも嬉しい。けれど、ひとつに絞るとしたら「自分では手の届かないところにあった音楽に触れられること」だと思う。
自力で出会う音楽は、どうしても系統が似てしまう。それはそれで悪いことだとは思ってないし、個人的には今後もロックンロールを突き詰めてゆく所存だ。けれども毎月のレビューページや、他の執筆依頼などを通して初めての音楽に触れる機会は格段に増えた。音楽との出会いは、もはや異文化との出会い。ジャンルのかけ離れたフィールドになればなるほど、その感覚は強かった。5月にインタビューをしたGOMESSの場合もそう。ラップという未知の領域に踏み込んだ結果、彼の表現する世界に衝撃を受けた。
そして「名前は知っているけどちゃんと聴いてこなかった音楽」と向き合うことで訪れる文明開化もある。今回はまさにそれだった。LUNA SEAのベーシスト・J。1990年代後半に音楽を聴く事を覚えた身としては、その名前を知らないハズもなく。LUNA SEAの代表曲もだいたい分かる。彼らが活動休止し、Jがソロ活動を始めたことも、もちろん知っていた。けれどもLUNA SEAもJもちゃんと楽曲を聴いたことはないに等しかった。そんな中、縁あって彼の20周年ライヴを観る事ができた。
まず驚いたのは、ライヴが始まるとすぐにフロア前方がいわゆる“モッシュピット”状態になっていたこと。彼のライヴでは“いつものこと”かもしれないが、私の中では衝撃的だった。今までもモッシュやダイヴが起こる現場には数々遭遇してきたが、それがJの20周年ライヴでも起きるなんて。まるで若手パンクバンドが作り出すようなフィジカルな熱狂に面食らった。そしてその熱狂を仕掛けているのは、他ならぬJ本人なのだ。
彼はとにかくフロアを煽りまくり、最終的には自らもダイヴ。常に「お前ら!」「~ぜ!」という口調で焚き付ける彼の姿は、絵に描いたロックスターそのものであり、同時にちょっとだけ古めかしく感じたのも事実だった。盛り上がる曲、シンガロングできる曲、バラード、ちょっとダークな曲……という構成にも表れている通り、語弊を恐れずに言うと、全てが予定調和なのだ。でもそれが、最強だった。初めて聴く曲ばかりにも関わらず、どう楽しんだら良いのか、次にどういう曲が来るのかが自然とわかる。それは彼のちょっとした言動や行動によるもので、曲間のMCが完璧なナビゲート機能を果たしているのだ。
彼のライヴが予習なしに楽しめる背景には、楽曲のキャッチーさも手伝っている。華やかなロックはLUNA SEA が活躍した時代の面影を残す曲調だが、そこにパンクの要素も加わり、よりエネルギッシュになったのが彼のサウンドだ。バンドブームを一手に背負ったようなこの楽曲が幅広い世代に受け入れられていることは、この日のフロアが物語っていた。終演後10代と思しき女の子のグループが、Tシャツにタオルを首に巻いた姿で興奮冷めやらぬ様子で語りあっているのを目にした。今の彼のファンの中にはLUNA SEAを聴いたことがない世代も多いという。YouTubeを通して彼の存在を知り、ライヴ会場に足を運んでいるとのこと。そしてもちろん、LUNA SEA時代からずっと彼を追い続けてきたであろう世代も見受けられる。その幅広い世代が、押し合いへし合い、飛び交っていた。
そんな熱狂を見終えた後、真っ先に頭に浮かんだのは“王道”のふた文字だった。誰もが思い描く“ロックスターのステージ”を繰り広げ、その想像を遥かに超える。この体験をして彼の虜になっていく者は多いだろう。スタンダードを突き詰めてゆくことの強さを思い知ったステージだった。
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.4 ― Plastic Tree 「雨中遊泳」
こちらはメジャーデビュー20周年のPlastic Tree。プラが好きだと言うと必ず「意外!」と言われますが、好きなんです。彼らを知ったきっかけは先日武道館を大成功させた、The ピーズ。今から14年も前ですが、プラが「バカになったのに」をカバーしたことがあったのです。そこから興味を持ち、聴き始めたのが出会い。そのせいか彼らに対して「ビジュアル系」という認識が私には殆どなく。ただアングラで退廃的な雰囲気と悲しげでレトロな曲調が、とても新鮮だったし美しいと思った。中でも彼らの雨にまつわる曲は、格別。『音楽と人』でもレビューを書きましたが、彼らから届いた新曲は、雨の歌。やはり、プラには雨が似合います。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。もしかしたら人生初のフジロック参加が決まるかもしれず、楽しみに先立って戦々恐々としています。皆さまのサバイバル術を伝授していただけたらと思います…(切実)。